第五十一話
「暗くなってきましたね」
美咲は紫色に染まった空を見上げた。
異世界の方が、現代よりも空が綺麗だ。
今まで空を見るようなことがなかったためか、余計そう感じる。
振り返っても、最後尾の顔が見えなくなってきた。
「そうだね、今日はこの辺で休もう」
レイブンは足を止めて振り返った。
「火はどうする?」
恭輔は辺りの様子を窺っているレイブンに問いかけた。
レイブンは恭輔の顔を見ると、微笑んだ。
恭輔はその笑顔に何か嫌な予感がした。
「恭輔、君は体力には自信があるよね?」
「何が言いたいんだ?」
「別に?ただ彼らには戦う力が無いし……」
レイブンは怪訝そうに見てくる恭輔から目を離して、肩で息をしている集落の人々を見た。
今まで魔物に操られていたせいか、体がまだついてこないようだ。
「あの、私が薪を集めてきましょうか?」
「美咲ちゃんが?」
「はい、私はまだ動けますから」
「うーん、女の子には行かせたくないんだけどな~」
「わかった、行けばいいんだろ?」
恭輔は剣を背中から外し、美咲に預けた。
押しつけられた美咲は戸惑いながらも、剣を両手で受け取った。
しかし、剣は思った以上に重く、足元がふらついた。
――恭輔はいつもこれを使いこなしてたんだ。
「そうかい?悪いねー」
「行って欲しいって素直に言えばすぐに行ったよ」
恭輔は皮肉を込めてそう言うと、森の方に歩いていった。
「あの~」
一人の中年男性が恭輔に声をかけた。
恭輔は足を止め、無言で振り返った。
「その必要はないと思いますよ?」
男性は集落から引いてきた台車に歩いていくと、掛かっていた毛布を外した。
積んであった荷物に恭輔は目を見開いた。
それを見たレイブンは感嘆の声を上げて、台車に近寄った。
「積んであったんだ、薪」
そこには大量の薪が積んであった。
これだけあれば一週間は余裕でもちそうだ。
「念のために積めるだけ積もうと思いまして」
「わー、ありがとうございます!」
美咲は両手で男性の右手を握った。
男性は左手で頭をかきながら、照れ臭そうに笑っている。
「あるなら最初から言えよ……」
恭輔は呆れたように呟いた。