第四話
「でも、どうやって異世界に行くの?」
部屋に戻り、着替えを終えた美咲はヴォイドに話しかけた。
{私が異世界へ座標を合わせる、お前は私に魔力を送ればいいだけだ}
「送ればって・・・そもそも私に魔力なんてあるの?」
{お前、覚えて無いのか?}
「何を?」
{まぁいい、簡単にいえば神経を手先に集中させるということだ}
「わかった、やってみる」
美咲は目を閉じ、杖を持っている右手に神経を集中させた。
すると美咲は宙に浮いたような感覚を覚えた。
☆★☆★☆★
{着いたぞ}
「え?」
目をあけると、そこには港町が広がっていた。
美咲が立っている場所は風通しの良い高い丘だった。
「わー、すごい景色!」
{ここがもう一つの世界だ}
「へー、なんかすごい平和そうだけど・・・」
{この地域は比較的に連中の手が及んでないからな}
「じゃあ街に入ってもいいよね?」
そう言うと美咲は丘を降りていった。
☆★☆★☆★
「すごーい、なんかパリみたいでオシャレ!」
美咲は街に入ると、はしゃいでいる。
「ここって、服屋あるかな?」
{喜ぶのは勝手だが、私の声はお前にしか聞こえてないからな}
「え?じゃあ街の人には大声で独り言いってるように見えてるの?」
{ああ、そういうことになる。あと声に出さなくても、念じれば私に伝わるからな}
(そういうことはもう少し早く言ってよ!)
街の人にどういう風に見られたのかと思うと、美咲は赤面した。
☆★☆★☆★
「ん?なんだろ?」
しばらく歩くと怒声のようなものが聞こえてきた。
{おい、余計なことして面倒事に巻き込まれるなよ}
(大丈夫、見に行くだけだよ)
近づいてみると、店の主人と大男が言い争っているようだ。
「客が店に入っちゃいけねぇのかよ!」
「そうではなく、あなたが入ると他のお客の迷惑になるんですよ」
「なんだと!?」
男は今にも華奢な主人に殴りかかりそうだ。
「むぅ、あの人!」
美咲は主人と男の間に割って入った。
「あの!お店の人困ってるじゃないですか!」
「あ?なんだ嬢ちゃん、邪魔すんじゃねぇ!」
「お酒のにおい?昼から酔っ払って絡むなんて、恥ずかしくないんですか!?」
「ぐっ!おい嬢ちゃん、きれいな顔に傷がついてもいいのか?」
男が威嚇をして、顔を近づけたとき。
「あんた!何やってんだ!」
男の妻が阿修羅のような顔で近づいてくる。
「げっ」
さっきまでの勢いはどうしたのか、男は縮こまっている。
「ごめんねお嬢ちゃん、うちの主人が迷惑かけて」
「いえ、大丈夫ですよ」
美咲は笑顔で答えた。
「そう言ってくれると嬉しいよ。あんた、帰るよ!」
男の襟を掴んで男の妻は去っていった。
『お嬢ちゃん、すげぇなー!』
『肝が据わってるよ!』
いつのまにか野次馬が集まっていたようだ。
「ありがとう、助かったよ」
店の主人は安堵の表情を浮かべている。
「いえ、私は別になにも・・・」
「いやいや、君が間に入らなければ僕は殴られていたかもしれないしね」
確かにあの勢いだと主人は殴られていただろう。
「お礼にうちのケーキでも食べてくれないかな?」
「そんな、お礼だなんて・・・じゃあお言葉に甘えて」
断ろうと思ったが、甘党の美咲には断り切れなかった。