第四十三話
「なにか・・・様子がおかしいな」
レイブンは異変を感じ、辺りを見渡した。
先ほどよりも歩いている人が減った気がする。
「・・・まさか!」
レイブンは歩いてきた道を走って引き返した。
最悪の展開を想像したからだ。
「お婆さん!」
レイブンは最初に訪れた大きな家に上がり込んだ。
老婆は座布団に座り、紅茶を飲んでいる。
「そんなに急いでどうしたんだい?」
「人を探してるんだけど・・・」
「ああ、あの子なら奥で寝てるよ」
老婆は奥の部屋に顔を向けた。
それを見たレイブンは笑みを浮かべた。
「おかしいなぁ、僕は美咲ちゃんを探してるなんて言ってないよ?」
老婆はレイブンに向き直り、首を横に振った。
自分の言ったことを取り消そうとしているようだ。
「そ、そんなことより、あの子はすごいね~」
「すごい?何が?」
「あんな魔力持った人は初めて見たよ」
「へー、それは変だな」
レイブンは顎に手を当てて、首を傾げた。
その動作は非常にわざとらしく、確信めいたものがあるようだ。
老婆は何かミスをしたのかと、慌てている。
「な、なんだい」
「魔力の大小がわかるものは限られているんだよ」
レイブンはゆっくりと老婆に近づいていく。
二人の距離が近くなるにつれ、老婆は冷や汗をかき始めた。
「一つは魔力がある人間、もう一つは・・・」
レイブンは焚き火の前で足を止めた。
「魔物だよ」
レイブンは冷たい目で老婆を見下している。
その目には光がなく、異物を見るような目だ。
「わ、私は魔法使いだよ」
「ふーん、じゃあ魔法使ってみてよ」
レイブンは冷たく言い放った。
最初訪れたときとは雰囲気が全く変わっている。
「そ、それは・・・」
「出来ないんだろ?まぁ、あんたの正体はドールだから当たり前か」
「・・・なんだ、気付いていたのか」
老婆の声が急激に低くなった。
その声は腹に響くほど低い。
「あの娘を乗っ取ってからにしようと思っていたが・・・仕方ない」
「何?美咲ちゃんは無事なのか?」
「意志が強くてな、時間がかかりそうだ」
「そうか、それがわかればお前に用はない」
そう言うとレイブンは、腰に下げているダガーを両手に持った。
ドールは低い声で笑っている。
「そんなもので俺を倒せるのか?」
「逆だよ、お前程度ならこれで十分だ」
「減らず口を!」
ドールの気に障ったようで、老婆の口からドールが飛び出した。
その大きさは、美咲を襲ったドールの倍以上ある。