第四十話
「ここだね」
レイブンは集落の一番奥で足を止めた。
目の前には、藁で造られた大きな家が建っていた。
それを見ながら、美咲も足を止めた。
「この家がどうかしたんですか?」
「話を聞くのさ、集落の長にね」
権力のある者は財力もあるに違いない。
そう思い、レイブンは家に足を踏み入れた。
しかし、家の中央に焚き火があるだけで人の姿はなかった。
「誰かいませんかー?」
呼んでみるが、返事はなかった。
レイブンの声を聞き、美咲も恐る恐る家の中に入る。
屋内は家具など一切なく、絨毯の上に座布団が三枚ほど置いてあるだけだった。
「いないみたいですね」
「いや・・・いるみたいだよ」
レイブンは家の奥を見つめている。
レイブンの視線を辿ると、奥に人影が見えた。
その人影はゆっくりとこちらに向かってくる。
「おや、お客さんかい?」
奥から腰の曲がった老婆が姿を現した。
優しい口調だが、顔の皺で表情はわからなかった。
「すみません、お邪魔してます」
美咲は軽く頭を下げた。
レイブンもそれに続いて頭を下げると、口を開いた。
「少しお話を伺ってもよろしいかな?」
敬語を使い慣れていないのか、色々と間違っている。
老婆は頷くと、二人に手で座るように促した。
美咲は笑顔で礼を言うと、ゆっくりと座った。
レイブンは警戒しているのか、目で周りの様子を探りながら座った。
「そうだ、お茶でも出させようかね」
「いえ、お構いなく」
「まぁまぁ。おーい、エドワード」
老婆が名前を呼ぶと、奥の部屋から青年が出てきた。
その青年を見て、美咲は思わず身を乗り出した。
それは遺跡で流されたはずの恭輔だった。
「きょうすーー」
しかし、美咲の言葉はレイブンの手によって遮られた。
口を塞がれてしまい、喋ることができない。
レイブンはその場を取り繕うように口を開いた。
「最近、ここに旅の人は来なかった?」
「いや・・・来てないねぇ」
「そっか、ありがとうお婆ちゃん」
レイブンは立ち上がると、美咲の腕を掴んだ。
そのまま腕を引っ張られて、美咲は外に連れ出された。
しばらく歩いたところで、レイブンは振り返り、美咲の腕を離した。
「ごめんね、痛かった?」
「いえ、痛くはないですけど・・・」
いきなり連れ出され、困惑したのは確かだ。
それに、美咲が見たのは間違いなく恭輔だった。
「なんで恭輔が・・・」
「そのことなんだけどね、あれは恭輔だけど恭輔じゃないんだ」
美咲はそれを聞いて、首を傾げた。
しかし、以前に同じような経験をしている。しかも最近だ。
「もしかして、スライムですか?」
「うーん、惜しいね。奴らはドールだ」
「ドール?」