第三十八話
「ん・・・」
美咲は波の音で目が覚めた。
どうやら気絶している間に、浜辺に流れ着いたようだ。
誰かが運んでくれたらしく、美咲は上着を掛けられて木陰に倒れていた。
「ここは・・・」
「目が覚めたかい?」
上体を起こして声のした方を振り返ると、そこにはレイブンが座り込んでいた。
美咲と目が合うと、レイブンは微笑んだ。
「レイブンさん?」
「情けないよね・・・安心していいとか言っておきながら、僕まで気絶するなんて」
「いえ、あなたがいてくれて心強かったです」
美咲は首を横に振り、否定した。
しかし、美咲は恭輔のことを考えると、笑顔になることはできなかった。
「恭輔なら大丈夫だよ」
「え?」
「心配なんでしょ?顔を見ればわかるよ」
レイブンは立ち上がると、美咲に手を差し伸べた。
「奥に進んでみよう、もしかしたら彼がいるかもしれない」
「そう・・・ですね」
美咲はレイブンの手を握り、立ち上がった。
「レイブンさん、上着は」
「ああ、寒そうだから着てていいよ」
確かにレイブンの言う通りで、美咲は肌寒さを感じていた。
衣服が海水で濡れているせいかもしれない。
美咲はレイブンの言葉に甘えて、借りることにした。
「ありがとうございます」
「うん、じゃあ行こうか」
美咲は頷き、レイブンの後ろに付いて森の中に入っていった。
☆★☆★☆★
「お、あれは」
レイブンは手を伸ばし、木に実っている赤い果実を採った。
その果実は美咲が見たことのないものだった。
「ハニー、食べるかい?」
レイブンは美咲を振り返り、果実を差し出した。
しかし、美咲は食欲がなく、首を横に振った。
「いえ、私は大丈夫です」
「いいから、騙されたと思って食べてみなよ」
強く勧められ、美咲は渋々その果実を口にした。
かじった途端に、爽やかな甘さと水分が口の中に広がった。
「んっ、おいしい!」
「ふふ、喜んでもらえて良かったよ」
美咲は自然と笑みがこぼれた。
レイブンは微笑んで美咲を見つめている。
「ようやく笑ってくれたね」
「え?」
美咲は顔を上げると、レイブンと目が合った。
レイブンは木を振り返ると、実っている果実を採ってかじりついた。
「それほど大事なんだね、彼は」
「・・・私、恭輔に迷惑かけてばかりなんです。だから今度は私が助けなきゃ」
「そっか・・・僕は恭輔が羨ましいよ、そんなに思ってくれてる人がいるなんてね」
「あ、いえ、そういうわけじゃなくて」
美咲は焦って両手を横に振った。
レイブンは微笑むと、美咲の肩を叩いた。
「大丈夫、絶対に会えるよ」
「はい、それと・・・」
先に進もうとしていたレイブンは振り返った。
「なんだい?」
「ハニーって言うのやめてもらえますか?」
レイブンは意外そうな顔をしている。
「どうして?」
「ハニーって慣れないので、美咲って呼んでもらった方が・・・」
「なるほど、わかったよハニー」
そう言ってレイブンは歩き始めた。
美咲はため息をつくと、レイブンの後に付いていった。