第三十七話
前回は中途半端に終わってしまいました。
「ハニー!すぐに助けるよ!」
青年はそう言って、美咲を振り返った。
しかし、バイスが青年の道を塞いだ。
「行かせるわけがないだろう?」
バイスは何度も青年に斬りかかる。
避けることは容易いが、これではキリがない。
青年は何かを思いついたような顔をした。
「そうだ、兵器の在り処を教えるよ」
「なに?」
その言葉を聞き、バイスの動きが止まった。
青年はバイスに向かって、人差し指を立てて微笑んだ。
「ただし、手を出さないことが条件だよ」
「悪魔がその条件を呑むと思うか?」
「別に構わないけど、呑まないなら永遠にここを彷徨うことになるよ?」
「・・・お前ら、もうやめろ」
バイスの声を聞き、魔物たちの動きが止まった。
黙って従う者と、文句を呟いている者もいる。
「さっすが~、物分かりがいいね」
「それで、古代兵器はどこにあるんだ?」
「まぁまぁ、そう焦らないでよ」
青年はゆっくりと石碑に歩み寄った。
すると、床に座り込んでいた恭輔がふらつきながら立ち上がった。
「お前、そんなことしたら・・・」
「まぁ黙って見てなよ」
青年はズボンのポケットから宝石を取り出すと、台座にそれをはめ込んだ。
台座からガタンという音が響いた。
「なるほど、それが鍵だったわけだな」
バイスは頷き、台座に歩み寄った。
その直後、遺跡全体が音を立てて揺れ始めた。
「なんだ?どうなっている?」
バイスが青年を振り返ると、青年は俯いて笑っている。
その姿を見て、バイスは眉をひそめた。
「何がおかしい?」
「いや、確かにあんたの言う通り宝石が鍵になってるよ」
青年は顔を上げて、台座から宝石を外した。
「でも、この宝石じゃない別の宝石だ」
「まさか・・・貴様!」
「そうだよ、この遺跡は崩れる。古代兵器も一緒にね」
すると、遺跡の壁が崩れて大量の水が流れ込んできた。
「この遺跡は海中にあるから、早く逃げないと手遅れになるよ?」
「くそっ!撤退だ!」
バイスは真っ先に、入口へと走っていった。
しかし、天井が崩れ落ちて、通路は塞がれてしまった。
「おや、これは予想外だね」
想定外の出来事に、青年の予定は崩れてしまった。
その間にも海水は流れ込み、腰まで溜まっている。
青年は急いで美咲に近付いた。
「ハニー、大丈夫かい?」
「はい、あなたは・・・レイブンさんですよね?」
「そうだよ、でも今はそれどころじゃない」
海水はすでに肩まで溜まってしまった。
美咲は部屋を見渡して恭輔を探すが、姿が見当たらない。
「恭輔がいない!」
「流されたのかもしれない」
「そんな・・・」
「ここを出よう、じゃないと僕達も流される」
「・・・わかりました」
レイブンは美咲の手を引き、崩れた壁に向かった。
潜れば外に出られそうだ。
「しばらく潜るけど、大丈夫かい?」
「はい、息が続くか心配ですけど」
「僕が引っ張るから、安心していいよ」
二人は大きく息を吸い込み、潜り込んだ。
壁をくぐると、水路のようなものが続いている。
そこを進んでいくと、横から何かが美咲にぶつかった。
それは断末魔の表情をしたゴブリンだった。
「・・・!?」
美咲は驚いて、肺の空気を全て吐き出してしまった。
それに気付いたレイブンは、美咲を引き寄せた。
そのまま顔を近づけるレイブンに、美咲は首を振った。
どうやら口付けで空気を送ろうとしたようだ。
しかし、そのようなことをすれば二人とも生存の可能性は低くなる。
(苦しいだろうに・・・)
断固として拒否する美咲に、レイブンは同情した。
レイブンは急いで、出口を探す。
しかし、美咲は目を閉じており、すでに意識はなかった。
ようやく海に出れた頃には、レイブンの意識もなくなりかけていた。
(くっ、あと少しなのに・・・)
気持ちとは裏腹に、レイブンの意識は遠のいっていった。
感想があればお願いします。