第三十二話
「おや、私のことを知っているとは」
アルトは眼鏡を上げながら、恭輔を見た。
美咲は二人を交互に見ている。
「恭輔、知り合いなの?」
「いや、前に本で見ただけさ。色々な研究をしていて、すごい有名な人なんだ」
「それほどじゃないさ」
アルトは謙遜して首を振っている。
「もういいだろ、剣を避けてくれよ」
放っておかれたゴブリンは声を上げた。
恭輔はゴブリンに向き直った。
「まだ聞きたいことがある、他の奴らは?」
「他ってなんだよ?」
「とぼけるな、お前らだけで町を襲えるわけがない」
剣先でゴブリンの顔を無理やり上げさせた。
ゴブリンは焦って口を開いた。
「遺跡だよ、遺跡に行ったんだ!」
「なぜ町を襲ったんだ?」
「この爺さんに遺跡の秘密を聞くためさ」
ゴブリンはアルトを指差した。
美咲は眉をひそめて、ゴブリンに近付いた。
「それだけのために町の人の命を奪ったの!?」
「ああ、爺さんを出せって言ったら攻撃してきたからな」
「だからって」
「人間なんていくらヤってもいいんだよ」
ゴブリンはケタケタと笑っている。
すると、恭輔はゴブリンの腕を軽く斬った。
ゴブリンは痛みで叫び声を上げた。
「お前、自分の置かれてる立場が分かってるのか?」
「恭輔!」
美咲は恭輔の腕を掴み、首を横に振った。
恭輔はため息をついて、剣を収めた。
「ほら、さっさと行け。目障りだ」
恭輔は目の前にいるゴブリンを蹴飛ばした。
残りのゴブリン二匹が蹴られたゴブリンに肩を貸す。
「お、覚えてろよ!」
「俺達ゴブリン三人衆を敵に回したことを後悔するぞ!」
「そうだそうだ!」
恭輔はゴブリン達を睨みつけた。
ゴブリン達は一目散に逃げて行った。
「あんたらのお陰で助かったよ」
「いえ、怪我はないですか?」
美咲は心配そうにアルトを見つめた。
アルトは優しく微笑んだ。
「大丈夫、それより町の皆は?」
「一人は助けることができたんですが・・・」
美咲はそれだけ言うと、俯いた。
その様子を見て、アルトは町の状態を察した。
「そうか・・・」
「はい、私達がもう少し早く来ることができれば・・・」
「いや、来てくれただけでも十分だよ」
「博士」
恭輔は家に魔物がいないことを確認すると、アルトを振り返った。
「遺跡の宝というのは?」
「古代兵器だよ、今は失われた技術でつくられたらしいけどね」
アルトは複雑な表情を浮かべている。
美咲は不安そうに口を開いた。
「それは危険な物なんですか?」
「うむ、国一つは簡単に滅ぼせると言われている」
「じゃあ急がないと!」
「待ちなさい」
アルトは家を飛び出そうとした美咲を呼び止めた。
すると、近くのテーブルに置いてある紙に何かを書き始めた。
「これを持って行きなさい」
アルトはその紙を美咲に向けた。
美咲はアルトに近寄り、それを受け取った。
「それに遺跡の謎を書いた、それで兵器を破壊してくれ」
「そんなことしたら」
「いいんだよ。魔王の手に渡るぐらいなら壊した方がいい」
アルトは悔しそうな表情をしている。
研究者として、先人の遺産は残しておきたいからだ。
「わかりました」
「二人だけでは心配だが、君達にしか頼めないんだ」
アルトは美咲と恭輔の手を強く握った。
美咲は力強く頷いた。
アルトは手を離すと、二人を見つめた。
「遺跡は町を出て、北の方だよ」
「わかりました、行ってきます」
「気を付けるんだよ」
美咲は頷くと、恭輔と共に家を出た。
「よし、じゃあ行こっか」
「ああ」
美咲達は町を出ると、遺跡に向かった。