第二十九話
「よし、着いたぞ」
馬車を運転する男性の声を聞き、美咲は顔を出した。
目の前には森が広がっていた。
「俺が送れるのはここまでだ、悪いね」
「いえ、ありがとうございました」
礼を言い終えると、美咲と恭輔は馬車から降りた。
馬車はゆっくりと方向を変えると、来た道を戻っていった。
「わー、大きいねぇ」
美咲は目の前の木を見上げた。
自分の何倍もある木が数え切れないほど並んでいる。
「じゃ、入ろっか」
「ああ」
美咲達は森に足を踏み入れた。
足元には木のツルが伸びていて、非常に歩きにくくなっている。
「なんかジャングルみたいだね」
「そうだな、歩けるか?」
「大丈夫、ありがとう」
折れた木やツルを跨ぎながら進んでいく。
進めば進むほど、辺りから動物の鳴き声が聞こえてくる。
「今のって・・・」
「大丈夫だ、ここにいるのは鳥ばっかりだからな」
心配ないと、恭輔は首を横に振る。
美咲は周りの様子を窺いながら、恭輔の後についていく。
しばらく進んだところで、周囲の空気が変わってきた。
「あっつーい・・・」
「それだけ進んだってことだな」
湿気が多く、体に纏わりつくような嫌な暑さだ。
しかし、恭輔は顔色一つ変えず歩いている。
「恭輔は暑くないの?」
「ああ。それに、町はこんなもんじゃないぞ」
「え?」
「町がある場所は砂漠だからな」
恭輔は振り返り、笑みを浮かべた。
美咲達は砂漠に向かって歩いていたのだ。
美咲は急に足取りが重くなってしまった。
☆★☆★☆★
「わー、すごい!」
美咲達が森を抜けると、そこには砂漠が広がっていた。
見渡す限り砂という光景に、美咲は感動を覚えた。
「すごいけど・・・暑いね」
「ああ、そうだな・・・」
恭輔は俯いて考え込んでいる。
以前この道を通った時は、何度も魔物と遭遇した。
しかし、今回は一度も会うことはなかった。
「なぜだ?」
「恭輔、大丈夫?暑いの?」
美咲が顔を覗き込んでくる。
恭輔の体調を心配しているようだ。
「大丈夫だ、先に進もう」
二人は限りなく続く砂漠を歩きはじめた。