第二十四話
「誰かいませんかー?」
部屋を出た美咲達は、村の中を歩き回っていた。
村を全部見たが、人の姿を見ることはできなかった。
「スライムに襲われた時に、この村から出て言ったのかもしれないな」
「そうかもね・・・さっき助けてくれた人もいないみたいだし」
美咲は折り畳んでおいた矢文を開いた。
そこに書かれているレイブンという名前に思考を巡らせる。
しかし、その名前はやはり記憶に無かった。
「う~ん、誰なんだろう?」
「そんな変態、気にすることないだろ」
「でも助けてもらったんだから、お礼ぐらい言いたいし」
美咲が手紙を折り畳み、鞄に入れようとした。
すると隣の建物から物音がした。
「今の・・・聞こえた?」
美咲は建物を見つめながら、恭輔に聞いた。
恭輔は頷くと、建物に近づいた。
それは動物小屋のようなつくりで、人が住んでいる気配はなかった。
「何かいるかもしれない、俺が先に開ける」
「うん、わかった」
恭輔が扉に手を掛け、勢いよく開けた。
中には牧草が敷き詰めてあり、特に変わった所はなかった。
「音はしたんだけど・・・なにもないみたいだね」
「いや、奥に何かいるぞ」
恭輔に小屋の隅を指差され、美咲は目を凝らした。
暗くてわかりにくいが、確かに何かの影が見えた。
「あれは・・・ゴブリンか?」
それは膝を抱えて座り、怯えているゴブリンだった。
座っているせいなのか、とても小さく見える。
恭輔はゴブリンに近づくと、上から見下ろした。
「こいつは・・・子供のゴブリンだな。なんでこんなところにいるんだ?」
美咲はゴブリンに近づくと、しゃがみ込んだ。
ゴブリンは何をされるのかと俯いて震えている。
「怖がらなくていいよ、何もしないからね」
直後、美咲の背後で金属が擦れる音がした。
振り返ると、恭輔が剣を抜き、構えていた。
「何してるの?」
「何って・・・決まってるだろ、こいつを斬る」
美咲は目を見開き、立ち上がった。
「まだ子供なんだよ!?」
「そんなの関係ない、こいつは魔物だぞ?」
「ダメ!そんなこと許さない!」
美咲は両手を広げて、恭輔の前に立った。
恭輔は呆れて、ため息をついた。
「正気か?」
「当たり前でしょ!」
「当たり前って・・・」
自分のやっていることがわかっているのだろうか。
恭輔はそう思いながら、剣を鞘に戻した。
斬ろうと思っていたが、やる気を削がれてしまったためだ。
「・・・好きにしろ」
「ありがとう、恭輔」
美咲はゴブリンに振り返り、再びしゃがみ込んだ。
「どうしてこんなところにいるの?」
美咲は笑顔で質問した。
ゴブリンは敵意がないのに気付くと、顔を上げた。
「僕・・・スライムが怖くて隠れてたんだ」
恭輔はゴブリンの言葉に眉をひそめた。
子供とはいえ、ずる賢いゴブリンがスライムを恐れるのだろうか。
美咲は微笑んで、ゴブリンの頭を撫でた。
「そっか・・・それは怖かったね」
「お姉ちゃん達がスライムを倒してくれたの?」
「そうだよ、あのお兄ちゃんがほとんど倒してくれたんだけどね」
ゴブリンは恭輔を警戒しているのか、恐る恐る恭輔を見た。
腕を組んで見下ろしている恭輔に怯え、すぐに美咲を振り返った。
「そうだ、お姉ちゃん達ね、村の人を探してるんだけど何か知らないかな?」
ゴブリンは小屋の中央を指差した。
「牧草の下に部屋があって、そこに皆いるよ」
恭輔は指を差された場所にいき、牧草をどけた。
地面の色が一部変わっており、そこには取っ手が付いていた。
恭輔は取っ手を掴み上に引き上げた。
すると、そこには人が一人通れる程の穴が空いており、下りるための階段が続いていた。
「なるほど、こうなっていたのか」
美咲は恭輔の隣にしゃがみ、地下を覗き込んだ。
かなり深いのか、底が見えない。
「わー、どこまで続いてるんだろう」
美咲は立ち上がり、ゴブリンに近寄り微笑んだ。
「ありがとう、もうお家に帰ってもいいよ」
「え?逃がしてくれるの?」
「逃がすも何も、話を聞きたかっただけだからね」
「人間は僕を見るとすぐに攻撃してくるのに・・・」
ゴブリンは小屋の入口に走り、振り返った。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「あ、最後にお名前教えてくれないかな」
「僕はマイクだよ」
「じゃあね、マイク」
ゴブリンのマイクは手を振りながら、走っていった。
美咲はマイクの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
「じゃあ入ろうか」
「ああ」
恭輔が地下に入ると、美咲は後に付いていった。