第二十三話
「あれ?なんともない」
目を瞑って、身を固めていた美咲は目を開けた。
美咲に向かって伸ばされた無数の触手は目の前で止まっていた。
スライムの背中には矢が刺さっており、全て体の中心に刺さっているようだ。
動きが止まったスライム達が消えていく。
「これって・・・弓矢?」
建物の外を見ると、離れた家の屋根に人影らしきものが見えた。
距離にすると50メートルはあるだろう。
「あんなところから・・・誰だろう?」
放たれた矢はスライムの体の中心に、正確に刺さっていく。
恭輔と比較すると倍以上の早さで倒している。
「すごい・・・どんどん減ってく」
気が付けば、部屋を埋め尽くすほど大量にいたスライムは全ていなくなっていた。
美咲が外を見ると、既に人影は無かった。
「誰だったんだ?」
恭輔は剣を収めると、美咲の方を振り返った。
美咲は恭輔を見て、首を横に振った。
「わかんない、暗かったし」
美咲はそう言うと、部屋を見渡した。
すると柱に刺さっている矢に、紙が結んであった。
「これって、矢文かな?」
屋根の上の人物が書いたのだろうか。
美咲は矢文を開き、恭輔は後ろから矢文を覗き込んだ。
そこにはこう書いてあった。
~マイハニーへ~
これで貸し一だね♡
ハニーの愛するレイブンより
「・・・誰だ?」
「さぁ・・・知らない人だけど」
人の名前と顔を忘れない自信はあるが、初めて聞いた名前だった。
というより自分のことをハニーと呼ぶ人を忘れるはずが無い。
美咲は背中に少し寒気を感じた。
「まぁ助けてくれたんだし・・・きっと良い人だよ、うん」
「ただの変態じゃないのか?」
恭輔は、そんな人物に助けられた自分に嫌気がさした。
矢文を見ていた美咲は、思い出したように顔を上げた。
「村の人たちはどうなったの?」
「スライムは人の命を奪うことは滅多にしない。どこかで生きているかもしれないな」
スライムは生気を吸って生きているので、人の命を奪っては生きていけない。
知能は低いが、自分の寿命を縮めるような真似はしないだろう。
恭輔の返事を聞くと、美咲はすぐに部屋を飛び出した。
「おい、どこに行くんだ?」
「決まってるでしょ、村の人達を探すの」
「お人好しだな・・・美咲は」
まだ魔物が隠れているかもしれない。
美咲を一人で行かせるわけにはいかないので、恭輔は仕方なく後に付いていった。