第十九話
「気を付けて行くんだぞ」
「わかってるよ、父さん」
旅の準備が整った美咲と恭輔は、玄関の前で見送りを受けた。
「恭輔、いつでも帰ってきなさいよ」
「お姉ちゃんも遊びに来てね」
凛は美咲の手を両手で掴むと、笑顔で見上げてくる。
美咲は微笑んで、凛の身長と同じ高さまで腰を下ろした。
「うん、それまでに元気になってるといいね」
凛は嬉しそうに笑っている。
「恭輔、これ持って行きなさい」
母は恭輔にお金の入った封筒を手渡した。
恭輔は封筒を握りしめると、目を見張った。
「母さん、こんな大金いいのか?」
「さっきお父さんと話し合ったのよ、こんなときこそ使わなきゃって」
「父さん・・・」
恭輔が振り返ると、父は無言で頷いている。
恭輔も頷き返すと、美咲を見た。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「うん、そうだね」
恭輔は家族の方を振り返った。
「それじゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
母は微笑み、父は頷いている。恭輔は振り返って、歩き始めた。
恭輔の後ろ姿に、凛は大きく手を振っている。
美咲は手を振りながら、恭輔の後に付いて行った。
「大丈夫よね、あの二人」
「ああ、美咲ちゃんが付いてる。それに、俺達の息子なんだからな」
両親は優しい笑顔で見送り、凛は二人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。