第十六話
「ただいま」
山を下りた二人は家に帰ってきた。
下りてきた時はまだ明るかったが、日は沈んで辺りは暗くなっている。
美咲が怪我をしていることもあり、時間がかかってしまった。
息子の声を聞き、母は玄関に駆けてきた。
「恭輔!美咲ちゃん!」
母は、ボロボロだが元気そうな二人の姿に喜んだ。
不安な表情から、安堵の表情に変わっていく。
「二人とも無事でよかったわ、早く中に入りなさい」
二人は疲れた体を引きずるように、居間に上がっていった。
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「すごいじゃないか、山の主を倒すなんて」
恭輔の父は何度も頷いている。
自分の息子が山の主を倒したことが嬉しいようだ。
「さっきも言ったけど、倒したのは俺じゃなくて美咲だ」
誇らしげにしている父に恭輔は釘を刺した。
美咲は遠慮がちに首を横に振っている。
「まぁまぁ、いいじゃないの。父さんが喜んでるんだし」
恭輔の母はお茶を運びながら言った。
お盆をテーブルに置いたとき、右腕の袖が赤くなっているのが見えた。
恭輔の母は目を見張り、美咲の右腕を掴んだ。
「美咲ちゃん、怪我してるの?」
「あ、これは大した傷じゃないですから」
腕を掴まれて一瞬痛みが走ったが、美咲は笑顔で答えた。
恭輔の母は、美咲の右腕の布を解いた。
傷口は広く、砂利が入ってしまっている。
「大変!早く消毒しないと」
恭輔の母は、棚から救急箱を出し、消毒液を取りだした。
消毒液が傷口にかけられると、美咲は痛みで小さく声を上げた。
包帯を巻くと、恭輔の母は救急箱の蓋を閉めた。
「ありがとうございます」
「美咲ちゃん、怪我をしていたのか?」
恭輔の父は、心配そうに美咲を見ている。
「はい、でも本当に大した傷じゃないですから」
「その傷は魔法で治せないのか?」
恭輔は、美咲が凛に使った魔法を思い出した。
「それが・・・どうやって使ったか覚えてないの」
美咲は思い出そうと、記憶を辿っていく。
しかし、あの時は無意識だったので思い出すことができなかった。
「あ、そんなことより」
美咲は鞄を開けると、薬草をテーブルの上に出した。
恭輔の父は、目を細めて薬草を見ている。
「それは・・・まさか」
「はい、これを煎じて凛ちゃんに飲ませてあげれば、病気が治ると思います」
恭輔の父は薬草を手に取り、凝視している。
薬草を掴む手が小刻みに震えている。
恭輔の母は、嬉しさで涙目になっていた。
「これで・・・凛の病気が治る」
「はい、すぐには効果が出ないので時間がかかりますけど」
「それでもいい、治るだけでも十分だ。ありがとう、美咲ちゃん」
恭輔の父は目頭を押さえている。
「俺からも礼を言うよ、俺一人だったら薬草を採ることができなかった。ありがとう、美咲」
「そんな、礼だなんて」
皆に礼を言われ、美咲は謙遜してしまった。
無事に薬草を届けたことを実感すると、美咲は軽い眩暈がした。
「美咲ちゃん?大丈夫?」
恭輔の母は美咲を見つめている。
「魔物と戦って疲れたんだろう、休んだほうがいい」
「そうね、じゃあ二階の空き部屋に案内するわ」
「ありがとうございます」
美咲は立ち上がると、恭輔の母に支えられて二階に上がっていった。