第十一話
朝食を摂るために、居間に入った美咲と恭輔は椅子に座った。
食卓に凛の姿はなく、まだ起きられないようだ。
二人が椅子に座ると、食事が運ばれてきた。
「タリス山に行こうと思うんだ」
恭輔は母親が座ると同時に切り出した。
二人が来るより先に、椅子に座っていた恭輔の父は険しい顔で恭輔を見た。
「あそこは立ち入り禁止のはずだぞ」
「知ってる、でも行かなきゃ駄目なんだ」
恭輔の母は不安そうな顔で恭輔を見つめている。
夫の様子を見ながら口を開いた。
「あそこは魔物もでるのよ?そもそも何をしに行くの?」
「凛の病気を治すためなんだ」
恭輔の父は机を叩いた。
母はびくっと体が震えた。
「お前一人で何ができるんだ、危険すぎる!」
「一人じゃない、美咲も一緒だ」
「だったら尚更だ、昨日会ったばかりの女の子を連れていくなんて・・・」
「私は大丈夫です、それに私が言いだしたことなんです」
美咲は身を乗り出して言った。
自分が言いだしたことで恭輔ばかりに責任を負わせてはいけないと感じたからだ。
「なんだって?」
恭輔の父は美咲を見た。
息子ではなく、巻き添えを食ったと思っていた女の子が言い始めたとなったら、話は変わってくる。
「昨日調べた本に書いてあったんです。
タリス山にある薬草は万病を治すと」
「そうだとしても・・・」
「父さん、美咲は俺が絶対に守る。
だから行かせてくれ!」
状況を知らない人が聞けば勘違いしそうな内容だが、今はそんなことを言う人物はいない。
「わかった・・・そこまで言うなら止めない。
それにお前は頑固だから、止めても行くだろう。
でも条件がある」
恭輔の父は真剣な顔で恭輔を見た。
母は横で事態の成り行きを見守っている。
「必ず生きて帰ってこい、いいな?」
父の表情は柔らかくなっていた。
恭輔は無言で、深く頷いた。
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「はい、お弁当。途中で食べなさい」
玄関の前で、母は息子に弁当箱の入った鞄を手渡した。
恭輔は大剣を背負い、上着の中に頑丈な鎖帷子を着込んで、戦闘準備は万端だ。
「ありがとう、母さん」
恭輔は鞄を受け取り、美咲に手渡した。
「美咲が持っててくれないか?」
「うん、わかった」
美咲は恭輔が鞄を背負うことが出来ないのを察して、鞄を受け取った。
「気をつけるんだぞ」
父は恭輔と美咲の肩に手を置いた。
「ああ、行ってくるよ。父さん」
「行ってきます、お父さん」
恭輔は後ろを向き、歩き始めた。
美咲も頭を下げて、恭輔の後を追った。
「無事に帰ってくるかしら」
母は不安そうに、目で二人の後を追った。
父は母の肩を抱き寄せ、頷いている。
「大丈夫さ、あいつはそこそこ腕は立つし、美咲ちゃんも付いてる。
必ず帰ってくるさ」
両親は、小さくなっていく二人の姿が見えなくなるまで見送った。