第十話
「ん?母さん、美咲は?」
父親を部屋に運んで、居間に入ってきた恭輔は母親に聞いた。
「ああ、調べたいことがあるって地下に行ったわよ」
「そうか、じゃあ俺は凛の様子見てくる」
「頼むわ」
恭輔はお茶を一口飲むと、再び二階に上がっていった。
☆★☆★☆★
「わー、すごい量!」
地下の書庫に入った美咲は声をあげた。
そこは本棚が列になっており、どの本棚も一杯だった。
{おい}
「あ・・・な、何?」
絶対に怒られると思った美咲は、動揺した。
{随分と時間を食ったな}
「そ、そうだね」
{そして今お前は何をしようとしている?}
「いや・・・別に何もしないよ?」
{あの娘の病気を調べようとしているだろ}
図星だった。
{調べてどうするつもりだ?}
「あの・・・私にもなんかできないかな~って」
{お前は・・・}
ヴォイドは怒りというより呆れている。
これで何度ヴォイドに呆れられたかわからない。
「まぁとりあえず調べてみるだけだし、ね?」
{好きにしろ}
了解を得た美咲は、とりあえず近くの本棚から手をつけた。
「あれ、この本・・・」
他の本に比べて、新しい本を手にとった。
「この文字、なんでかわからないけど読める」
{それは私の魔法だ}
「え、そうなの?」
{ああ、街で話をすることができたのも魔法の効果だ。
そうしないと先に進めないからな}
「魔法って何でも出来るんだね」
本を捲っていくが、病気に関することは書いていなかった。
「違う所探そうかな」
奥の方にいくと分厚い本が並んでいる。
手に取ると、病気の症状などを書いている本のようだ。
「これは・・・医学書?」
よく見ると棚の本は全て医学書だった。
「この棚かな」
分厚い医学書を持てるだけ持ち、近くにあるソファに座った。
{全部読むつもりか?}
「凛ちゃんと同じ症状の病気が、見つからなければそうなるかもね」
そう言うと、美咲は医学書に目を通し始めた。
☆★☆★☆★
「・・さ・・き」
「う~ん」
「おい、美咲」
「ん~?」
美咲は声が聞こえて、目を開けた。
どうやら見ている間に寝てしまったようだ。
恭輔が見下ろしている。
「上がってこないから見に来たんだ。もう朝だぞ」
「え!?」
勢いよくソファから上体を起こした。
「随分たくさん読んだな」
恭輔はソファの向かいにある椅子に座り、積み重ねられている本を手に取った。
表紙を見ると、額に皺がよった。
「なんだこれは?」
「それは薬草学の本だよ」
「古代文字が読めるのか?」
「まぁ、一応ね」
ずっと字を見ていたせいで、少し目が痛む。
「なにかわかったのか?」
「うん、もしかしたら凛ちゃんの病気が治るかも」
「凛が?」
恭輔は目を見開いた。
「そう、山に生えてる薬草らしいんだけど、場所がわかんなくて」
「名前はわかるのか?」
「確か、タリス山だったはずだよ」
「タリス山・・・あそこか」
恭輔は場所を思い出し、苦い顔をした。
「あれ、知ってるの?」
「ああ、魔物が出るから今は立ち入り禁止になってる」
「そっか、でも凛ちゃんのためだしね」
美咲は立ち上がり、本を仕舞い始めた。
「まさか、行く気か?」
「だって治るかもしれないんだよ」
「そうだけど、魔物が出るんだぞ?」
「大丈夫、なんとかなるよ」
美咲は振り返り、笑った。
「わかった、でも俺も一緒に行く」
「え?」
「美咲一人で行かせるわけにはいかない。
それに、自分の妹のことなのに待ってることなんてできない」
「ありがとう・・・恭輔」
「とりあえず、朝飯を食ってから考えよう」
「うん」
二人は階段を上がっていった。