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平和な世界  作者: タフボーイ
プロローグ
1/82

序章

「おはよう、お兄ちゃん」


 美咲は弁当箱に自慢の卵焼きを詰めながら言った。

 平日の弁当作りは美咲の仕事になっている。

 兄と自分の二人分なので、少し早めに起きなければならない。


「おお、今日から授業始まるんだっけ?」


 拓斗は頭を掻きながら、食卓の椅子に座った。

 弁当の残りをつまみながら、テレビのニュースに耳を傾ける。


「いいよね~、大学生はゆっくりできて」


 美咲は弁当を作り終えて、タオルで手を拭いた。

 居間の時計に目を向けると、まだまだ時間に余裕がある。

 早めに準備しておこうと、制服であるセーラー服に着替えるために自分の部屋に入った。


 ☆★☆★☆★


 美咲は着替えを終えて部屋を出ると、そのまま両親の仏壇の前に座った。

 撥で鈴を鳴らして、両手を合わせる。


「お父さん、お母さん、行ってきます」


 両親の写真をしばらく眺めてから立ち上がり、台所の弁当箱を学生鞄に入れる。

 電話台に置いてある携帯電話と財布も鞄に詰め込んだ。


「それじゃ、行ってくるね」


「おう、いってらっさーい」


 美咲が出て行くのを見届けた後、拓斗は仏壇に視線を移した。

 仏壇の写真には笑顔で腕を組んだ両親が写っている。


「あれから13年か……」


 そう呟いた拓斗の目は、仏壇ではないどこかを見つめているようだった。



 ☆★☆★☆★



「あれ?」


 いつもの通学路に見慣れない光景があった。

 四角い台の上に水晶玉を置いていて、路上で占いをしているようだ。

 台の前にはフードを深く被った占い師が座っている。

 怪しさ満点の光景だ。


(こんな所にいるのも珍しいな~)


 あまり関わらないほうがいいかもしれない。

 そう思いながら通り過ぎようとした時。


「そこの娘」


「え?」


 声をかけてきたのはフードを被った占い師だった。

 声の嗄れ具合と高さからして老婆のようだ。


「私ですか?」


「お主以外に誰もいないじゃないか」


 確かに美咲以外に歩いてる人はいない。

 関わりたくないという願いは、あっさりと破られた。


「あの、何か御用ですか?」


「悪いオーラが出ている、今すぐ家に帰ったほうがいい」


「悪い……オーラ?」


 占いは信じる方だが、漠然としているため美咲は戸惑ってしまった。

 というより、オーラと言われても訳が分からない。


「それってどういう――」


 美咲が詳しく聞こうとした直後、遠くでチャイムの音が聞こえた。


「やばっ、もうそんな時間!? 私、学校行かなきゃならないんで失礼します!」


 そう言い残して、美咲は走り出した。

 思わぬタイムロスだ。


 徐々に小さくなる美咲の後ろ姿を見つめながら、老婆はため息をついた。


「ふむ、困ったことになった……」


 老婆はそう呟くと、占い道具を片づけ始めた。



 ☆★☆★☆★



「あれ、ユキ?」


 チャイムが鳴ったにも関わらず、前を歩いている親友の雪穂を見つけた。

 お下げ髪に黒縁メガネの彼女は見た目通りの優等生だ。

 成績優秀で、常に学年トップに君臨している。


「おはよう、ミサ」

「おはよう、チャイム鳴ったのに歩いてていいの?」


 雪穂は美咲を見つめて呆然としている。

 ため息をついて、腕時計に視線を落とす。


「ミサ、まだ8時20分だよ。それに、さっきのチャイムは近くの小学校だし」


「へ?」


 美咲は雪穂の腕時計を覗き込んだ。

 確かに時計は20分を指している。

 朝のホームルームは40分からだ。


「あ、ホントだ」


 無駄に全力疾走をしてしまったようだ。

 疲労と後悔から、美咲はがっくりと項垂れた。



 ☆★☆★☆★



「遅いなぁ」


 担任が出席を取り始めたにも関わらず、美咲のもう一人の親友はまだ来ない。


「いつものことでしょ?」


 雪穂は呆れた顔をしている。


「まぁ、そうだけど……」


 美咲が言うと同時に、教室の後ろのドアがゆっくりと少しだけ開いた。

 その隙間に体を滑り込ませて、一人の生徒が慎重に入ってくる。

 どうやら担任に気付かれないようにしているようだ。


「山口絵里香ー、ホームルーム始まってるんだから早く席に着けよー」


「バレたか……」


 教室全体に笑いが起きる。

 絵里香は開き直って、堂々と席に向かう。


「あーあ、ギリギリセーフだと思ったのにな~」


 そう言って絵里香は席に座った。


「エリは遅刻が当たり前なんだね」


 美咲はもう一人の親友である絵里香に小声で話しかける。

 絵里香も担任に聞こえないように、小声で返した。


「だって、化粧が決まんなくてさ~」


「化粧なんかしてくるからでしょ?」


 雪穂は完全に呆れている。

 絵里香は頬を膨らませて、美咲は二人の掛け合いを笑顔で眺めていた。

時間がある時に書きますので、期間が空くことがあります

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