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正反対な二人

掲載日:2026/06/02

「ったく、シケてやがんな。これっぽっちしか持ってねぇのかよ」

「ひ、ひぃっ! おおおおたおたお助けを! どうか、命ばかりは!」


 何処からどう見ても、追い剥ぎか山賊と、有り金を奪われている善良な通行人、といった風景。

 だが、金を奪われているほうが追い剥ぎであり、半泣きの追い剥ぎの男の首に大斧を当てている男の方が、ただの通行人である。

 ただし、通行人が善良かどうか、と問われれば、彼の人となりを知るものは首を傾げることになるだろう。


「甘ったれんじゃねぇよコソドロが。おら、持ってんだろ、出せよ」

「あ、あの、シュリさん? そン人たちは、もう持っとらンごたるです」


 大斧を持ったエルフ族の男に、小柄なドワーフの娘が独特の『ドワーフ訛』で声をかけた。

 小柄な彼女は、ゴソゴソと追い剥ぎのカバンを漁り、革製の財布を3つほど取り出している。


「あ? ……なんだよオイ手前ェ、何処に隠してやがる? オラ出すもん出しな。今出しゃ命だけは助けてやるよ」

「ひぃい……鬼、鬼だ……なんて悪党だこいつら」

「ンだもしたン、ウチは悪党じゃなか。悪党なのはシュリさんだけばい」

「おいモティ、人聞き悪いこと言うんじゃねぇよ。俺様は悪いやつらからしか獲らねぇよ」

「どっちも似たようなモン――」

「おぉっと、言わせねぇよ? で? どうなんだ? 出すのか出さねぇのか。自分から差し出すか、殺されて奪われるか、好きな方選びな」


 シュリと呼ばれた大柄なエルフの男は、緻密な動きで正確に斧の刃を追い剥ぎの頸動脈に当てる。

 ひいい、と情けない声を漏らし、追い剥ぎの男は必死で失禁をこらえた。

 傍目にも哀れになってしまうほどに震えながら、ポケットから鹿革の巾着を取り出して小柄なドワーフ娘に差し出す。


「さっき、こンだけしか持っとらン、って言うたじゃなかですか……」

「おゆ、お許しを! お許しを! ああああの、あの、あの人の一味ですよね? あの、もうシマぁ荒らしたりしません! ですからその、どうか殺さないように言ってもらえませんか!」

「ウチはシュリさんとは違うとけど……ウチはあげン極悪人のごたる人相じゃなかですよぅ」

「モティ、聞こえてんぞオラ。ったく……良いかクソガキ、よく聞け。俺様はシュリ。エルフ族の斧使い、破城のシュリってなぁこの俺様のことだ。しばらくこの先の街で世話んなるからよ、文句があんならいつでも来やがれ」


 歯をむき出しにして威嚇する猛獣のように、シュリは高貴なイメージのエルフらしからぬ顔を追い剥ぎに近づける。

 

「め、滅相もありません! 文句なんてそんなことは!!」

「あ? 手前よぉ、やられっぱなしでナメられて、こんなクソチビに良いようにされて悔しくねぇのか? 情けねぇな、とっとと消えろこの小物が」

「ウチはチビじゃなかですっ! その、ドワーフ族の女では平均身長より少ぉしだけ? ほんのちょっとカラダの小さかだけですっ!」


 大慌てで追い剥ぎの男は立ち上がり、何度か転びながら凄まじい勢いで街の方向へと走り出した。


「……シュリさん、ウチはチビじゃなかです」

「だから知らねぇって。お前結構根に持つよな?」

「ドワーフは執念深かとですよ」

「気にしすぎるとハゲるぜ」


 シュリとモティの2人は、それぞれエルフ族とドワーフ族としてはかなりの『変わり者』といえる。


 高貴で優雅、争いを好まず非力で魔力に優れた物が多い女性主体のエルフ族にあって、シュリは明らかに異質な異物である。

 極めて好戦的でドワーフに迫る膂力を誇り、かつ魔法を全く使えない男ともなれば、変わり者にも程があると呼ばれるほどの異彩を放つ存在だ。

 エルフでありながら単身突撃と力押しの戦法を好み、エルフらしいところがあるとすればその外見くらいであろう、というのが彼のもっぱらの評判だ。

 二つ名である『破城』は、彼のもつ斧の一振りで、とある砦の堅固な城門を破壊したという逸話から付けられたものだ。


 一方、怪力を誇るドワーフ族にあって、モティもまたシュリと同様異物とみなされていた。

 ハンマーを持ち上げられないほどの非力さに、蝶結びにも苦労するほどの不器用さを誇る彼女は、ドワーフ族にあるまじき法力を持って産まれた。

 癒しの力とも言われる法力に優れた彼女は、ドワーフ族の集落から離れた寺院で法術士として修行を重ね、晴れて冒険者としてデビューを果たしたのが今年の始めの頃。

 

 あまりにも好戦的でトラブルメーカーであったシュリと出会ってしまったのがモティの運の尽きである。


『なんだ手前ェ、ドワーフのくせに法術使えるのか。ちょうど良い、俺様が前衛と攻撃やってやるからよ、お前が俺様に回復かけりゃいいじゃねぇか』


 と、極めて一方的に、有無を言わさずモティとパーティを結成することになる。

 かくしてはぐれ者2人のパーティ『ブラックモンブラン』は、街を転々としながら冒険者としての活動を続けている。


「さっきの追い剥ぎさん、ほンなごて仕返しばしに来たらどげンすっとですかぁ」

「あ? そんなもんまたボコしてカツアゲするに決まってんだろうが」

「そン内、ウチ達が追い剥ぎのごと言わるッとじゃなかですかね」

「持ち主がはっきりしたモンでもなきゃあ手に入れたモン勝ちなんだよ。それにこないだ盗賊からパチったネックレス、あれも貴族のお嬢様のモンだったろ。届けたときのあの謝礼、ボロい商売だったよなぁ」

「うぅ……こいじゃあウチ達が盗賊ばい……」


 ドワーフ訛りを隠そうともしないモティは、容量がかなり大きなマジックバッグを肩にかけ直すと、中から地図を取り出した。


「さてと、あすこン見ゆッとが、目的地のヴスキん街のごたるです」

「よぉし。さっきの追い剥ぎもあの街に行ったよな。いっちょまた荒稼ぎしてやるかぁ」

「だけン、シュリさん……言い方……」

「ククク……見てやがれ、片っ端からシメてボコしてかっぱらってやるからよ」


 言っている内容は、どう見てもシュリの方が悪党である。

 が、彼ら『ブラックモンブラン』は冒険者であり、同時に盗賊や追い剥ぎの討伐をほぼ専業としているプロフェッショナルだ。


「モンスター相手にちまちま稼ぐなんざ非効率だ。どうせ盗賊どもはたんまり溜め込んでるからな。溜まったモン頂いてとっととズラかる、それが俺達のやり口さぁ」

「ああ、お父ちゃんとお母ちゃんになんて言い訳ばしたら良かとやろ……こげン人と一緒にパーティば組んでしもうて」

「今更ひとりだけ良い子みてぇなこと言うんじゃねぇよ。オラ行くぞ。新しい金づる……じゃねぇ、新天地が俺達を待ってるぜぇ?」


 ひゃっはっはっは、と完璧に悪の一味の親玉のような高らかな笑い声。

 対称的に大きくため息を吐いたドワーフ娘は、癒しの術を助ける効果がある、といわれる杖を大事そうに抱えて、大斧を担いだエルフ男と並んで歩く。


「シュリさん、門番さんに喧嘩ば売らンごとしてくださいよ?」

「あ? 売ってねぇだろ? 買ってんだよ。ったく、何が悪人面だよ。言いがかりもいいとこじゃねぇか」


 再びため息を吐いたモティは、『ウチがハナシばしますけン、シュリさんは黙っとってください』と言いつけて、ひとり門番に歩み寄っていった。

今日のショートショートは、「エルフとかドワーフに対するイメージとは正反対なキャラクター同士がパーティを組んだらどうなるかな」という、単純な思いつきから書いてみました。

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