A、B、C、D…… :約1000文字 :電車
「A、B、C、D……」
――ん?
夜の電車内。満員というほどでもないが、座席はきっちり埋まっている。おれは吊革に掴まり、うとうとしていた。眠気に優しく手を引かれ、まぶたが落ち、頭が前にカクンとなったそのときだった。隣から呟く声が聞こえてきた。
「E、F、G、H、I、J、K……」
おれは思わず吹き出しそうになり、喉にぐっと力を込めた。
いや、あるある。アルファベットの順番が急に怪しくなって、歌で確認するやつ。普通は頭の中でやるものだが、どうやらこの声の主は声に出している自覚がないらしい。
「L、M、N……」
子供なら微笑ましいものだが、隣でぶつぶつ呟いているのは、いい歳の男だった。しかも奇妙なことに外国人だ。
「O、P、Q、R……」
まあ、外国人だって順番を忘れることはあるだろう。とはいえ、なぜ今確認しているんだ。何かのサイズか? 服か、コーヒー、他にあるといえば……胸の――ほほう。
今気づいたが、男の真正面の座席に、胸元が大きく開いた服を着た女が座っている。しかも、なかなかの、いや、かなりの胸だ。谷間がくっきりと浮かび、電車の揺れに合わせて、ぷるんと揺れている。
なるほど。これは確かにサイズが気になる状況だ。
これはいいことに気づかせてくれたな。
おれが男のほうをちらりと見ると、視線に気づいたのか、男は顔を少しこちらへ傾け、にやりと笑った。
「S、T、U、V、W……」
さて、何カップだ? Dか? いや、Eはありそうだ。
「X、Y、Z」
いや、F……いいや、Gかもしれん。すごいな。
「XYZ」
眠っているのだろう。女はうつむいているが、雰囲気からして、たぶん美人だ。
「XYZ」
ああ、あんな胸を好きにできたら――。
「きゃああああ!」
「えっ?」
「へ、変態!」
な、なんだ? おれは別に何も……。それに、どういうことだ? 叫んだのは例の胸の女ではなく、おれの真正面に座っていた中年の女だ。
目をぎらりと光らせ、こちらを睨みつけている。どうして……ん? なぜ、おれの顔と腹のあたりを交互に見て――あっ。
「XYZ。HAHAHAHA!」




