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無敵の移動販売車で行く、ゆるふわ異世界親子旅 〜あ、どうも。コーヒー屋です〜  作者: TAKABE


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8/13

転生者ですか、令嬢

「ホイップクリームを食べた時ですわ。全身に電流がはしったのです」

「この世界では珍しいのか」

「ええ。そのとき、前世の記憶を思い出しましたわ」


 アレミシアは取り巻きの執事を下がらせ、孝太のそばへ椅子を寄せた。

そこへルミがやってきて、膝の上に座ってオレンジジュースを飲みはじめる。


「あんたも迷い込んだのか?」

「前世、と言いましたわ。わたくしは転生者ですの」

「そういうパターンもあるのか」

「どうもこの世界は、わたくしたちがいた世界と繋がっているみたいですわ」

「ルミ、おねえちゃんといっしょ?」

「そうですわね。ほとんど同じですわ」

「じゃあ、ルミもね、けっこんできる?」

「ふふふ。大人になればできますわ」

「わーい!」

「ちょっと一服してくるわ」


 孝太はルミを椅子に乗せ、懐からタバコを取り出しながら二人と距離をとり、ゆらゆらと揺れる水面をぼんやりと眺めた。


 ぷかぁ、と大きく煙を吐き出して、さてどうしたものかと思案する。

この先を考えると、元の世界へ帰る方法を見つけられるとしても、かなり先になるだろう。


 自分だけならまだいいが、ルミを連れて旅を続けていいものだろうか。

いまのところ大きな危険に遭遇することもなく、どうにか旅を続けているけれど、明日も無事に過ごせるかと問われれば、疑問符を打たざるをえない。


「パパー! じゅーす、おかわりだぞ!」

「……おーう」


 携帯灰皿でタバコの火を消して、不安もその中へ押し込んだ孝太は、軽バンへ移動してオレンジジュースを注いだ。


「それで、お願いがありますの」

「ん?」


 横からルミへオレンジジュースを差し出していると、耳もとで周囲を気にしながらアレミシアは囁いた。

あまりにも耳と口の距離が近くて、孝太は背中をぴくりと反応させる。


「ここから百キロほどいくと、港町がありますわ。そこに連れて行ってくれませんこと?」

「あの立派な馬車で行けばいいだろ」

「あの馬車はスピードが遅いうえに、執事のせいで狭いの」

「ふーむ……」

「もちろん、謝礼はお支払いしますわ」


 港町ならば、魚を買える。ここ最近はジャンクな食事ばかりで、魚を仕入れて和食を食べたい気持ちが湧きあがり、孝太は腕を組んで悩みだした。


「ルミ、おふねにのりたいぞ!」

「船、か……」


 冷静に考えてみると、この大陸だけが世界なわけがない。孝太はこれまで飄々としていたが、心のどこかで追い詰められていたのだろう。


 見知らぬ世界で小さな娘を連れて旅をする。それが圧力にならないはずもなく、孝太は自分を落ち着かせるように、大きく息を吐いて頷いた。


「はー……オッケー。乗せていこう」

「助かりますわ!」

「ルミ、たのしみだぞ!」


 アレミシアは執事たちへ指示をだし、最低限の荷物を鞄へ移してゆく。

孝太はテーブルを片付け、彼女の荷物を乗せるスペースを確保しながら、準備が整うのを待った。


「では、あなたたちは後から来なさい」

「しかし……!」

「これは命令ですわ!」

「……はい」


 権力をちらつかせて反論する執事たちを黙らせ、音符でも浮かび上がっていそうな軽い足取りで、アレミシアは鞄を持って軽バンヘ乗り込んだ。


「おい、いいのか? 本当に」


 射殺すような視線を無視できずに、孝太は後ろへ乗ったアレミシアに問いかけた。


「構いませんわ。行ってくださいまし」

「……はいよ」

「しゅっぱーつ!」


 緩やかに走りだした軽バンを追いかけるように、執事たちはいそいそと馬車へ乗り込み、馬に鞭をいれる。

そうこうしている間に軽バンと距離は開き、馬車がスピードに乗った頃には、もう見えない距離に差は広がっていた。


「で、町の名前は?」

「ツレールですわ。名前の通り、よく魚が釣れるので漁業が発展しましたわ」

「へー。そこへいって、お前さんは何をするつもりなんだ?」

「会いたい人がいますの。結婚する前に、一度だけ……」

「結婚するのか.そりゃめでたい」

「ルミもね、おおきくなったらけっこんするんだぞ!」


 孝太とルミは和やかな雰囲気を醸し出しているが、アレミシアは真逆で陰鬱だった。


「政略結婚ではなければ、わたくしも素直に喜べましたのに」

「あー……貴族令嬢だったか。お相手は?」

「この国の第一王子、レオン様ですわ」

「ふーん」

「もっとも……レオン様は、わたくしのことがお嫌いでしょうけれど」

「なにかあったのか?」

「記憶を取り戻すまでのわたくしであれば、嫌われても仕方ありませんわ」


 わがまま放題で、何人もの使用人を辞めさせ、学園でも不遜な態度。

そんな自分が好かれる要素がどこにあるのかーーと、アレミシアは俯いた。


 孝太は頬を掻きながら、ポケットをまさぐって飴玉を取りだし、口の中で転がし始める。


「んー……まあ、やっちゃったもんは仕方ないな。うん」

「パパもね、いっぱいわるいことしてたぞ!」

「いや、わるいことって……キャバクラくらい許してくれよ」

「ママね、めいし、やぶってたぞ! ふんっ! て」

「想像するだけで鬼が見えたわ」

「あはっ。あはははっ! そうですわね。せっかく元気な体で生まれ変わったのですもの」


 アレミシアは吹っ切れたように、顔をあげて正面を見据えた。

その瞳には、港町ツレールが写っている。


「……後悔しないように生きますわ」

「おう。そうしろ」


 孝太は飴玉を取りだし、アレミシアへ渡した。それを受け取った彼女は、懐かしいメーカーの袋を破り、赤くて甘いものを舌で転がす。


 なぜだが、幼いころより、とても甘く感じていた。

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