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無敵の移動販売車で行く、ゆるふわ異世界親子旅 〜あ、どうも。コーヒー屋です〜  作者: TAKABE


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7/13

こんにちは、令嬢

 ゴーヨクを後にした孝太とルミは、街道沿いを走っていた。

整備されていない天然の芝生は、ときおり大きな石が転がっていて、二人の体はそのたびに浮き上がっていた。


「うーん……やっぱ、あっちの道が楽だよなぁ」

「おうまさん、ひいちゃうぞ!」

「それなんだよなぁ。馬車が邪魔すぎる」


 街道は馬車がぎりぎりすれ違える程度の幅しかなく、定期的に対面からやってくる。

それだけならまだいいが、馬は軽バンに驚いてあさっての方向へ逃げ出してしまうのだ。


 さすがにそれは迷惑だろうと、気を遣って街道の脇を走り続けている。


「無敵の車とはいえ、こう何度も飛び跳ねてて大丈夫か?」

「ゆうえんちみたいだね!」

「あー、たしかに。衝撃はないのに浮遊感だけあるもんな」


 壊れないとはいえ、中に乗っているのは普通の人間である。

車酔いだけはどうしようもなく、気分が悪くなってきた孝太は適当な湖のそばで車を停めた。


「ルミ、ちょっと休憩しようか」

「うん。ルミ、おなかすいたぞ!」

「そうだな。腹に何か入れたほうが落ち着くかもしれん」

「じゃあね、んとね、ぱふぇ!」

「パフェはデザート。ごはんは別だ」

「いーやーだーっ!」


 不貞腐れて寝転んだルミを見て、顔を綻ばせた孝太は、フルーツサンドでも作ろうかと考えた。


「にしても、食材も減らんとはな」


 調理スペースへ行き、小型冷蔵庫を開けると、先日使用したウインナーやピクルスなどが元通りになっている。

パンもカビが生えずそのままで、シルフィアの言っていた通り、元の世界の状態を維持しているようだ。


「便利っちゃ便利だけどなぁ」


 減らないとはいえ、同じ食材ばかりでは飽きてしまうだろうし、栄養バランスも心配だ。

減らない特性を利用すれば、儲けるのは簡単だろう。


 だが、異世界に来てまで商売というのは、もったいないし味気ない。


「……ま、おいおい考えるか」


 冷蔵庫からイチゴとマスカット、ホイップクリームを取り出す。

食パンを切り、イチゴとマスカットを乗せてホイップクリームをかければ、お手軽なフルーツサンドの完成である。


 ルミにオレンジジュース、自分用にカフェオレを用意すれば準備万端だ。

せっかくなら湖のそばで食べようと、孝太は簡易テーブルを表に出す。


「ルミー。めしだぞー」

「んー。ルミ、いらない!」

「へー。ルミの大好きなフルーツサンドなのにー?」

「ルミ、たべるぞ!」

「ははっ……で、おたくらは?」


 駆け寄ってきたルミの後ろから、六人の姿が現れた。

ひとりは高そうなドレスを着た女性で、他には彼女を囲うように燕尾服を着た男たちがいる。


 真紅のドレスは明らかに外を歩くためのものではなく、あたりを見渡すと質の良さそうな馬車が停まっていた。


「わたくし、公爵家の長女、アレミシアですわ」

「ああ、そう。で? なんか用?」

「おい! 貴様っ! お嬢様に向かって無礼であろう!」

「他人様の食事を邪魔する方が無礼ってもんだぞ」

「身分をわきまえろ!」

「そうだそうだ!」

「お嬢様は由緒正しき、バルドラド公爵家のーー」


 捲し立てるように多数から責められ、面倒になった孝太は適当な謝罪をした。


「はいはい、すみませんね」

「このっ!」

「もういいですわ。静かになさない」

「しかし……」

「なんですの?」

「いえ……」


 アレミシアの冷ややかな声に、若き執事たちは恐々としながら退いた。

こいつらこの女が好きなんだろうなー、なんて考えながら、孝太はテーブルにフルーツサンドと飲み物を置く。


「それはなんですの?」

「……フルーツサンドとオレンジジュース。カフェオレだけど?」

「へぇ。聞いたことがない食べ物ですわ。わたくしに譲りなさい」

「だめだぞ! パパとルミのだぞ!」

「わたくしが「譲りなさい」と言ったのだから、黙って従いなさい」

「むーーーっ!!」

「ルミ、もう一回作ってやるから」

「……うん」


 不機嫌になったルミを車へ戻らせ、孝太はテーブルを開けた。

アレミシアは満足そうに椅子へ腰掛け、フルーツサンドを手に取り、じっくりと眺めだした。


「へぇ。白パンに果物を……このふわふわした白いものは……」

「なあ、早く食べてくれないか? 俺たち急ぐんでな」

「ふん。庶民は座して待てばいいのです。では、いただくわ」


 アレミシアはフルーツサンドをかじり、そのまま硬直して震えはじめる。

それを見ていた執事たちは血相を変え、それぞれが武器を取り出した。


「毒か! 貴様!」

「許せん! この場で……」

「お、おいひぃ〜っ!」

「……え?」


 ごくん、と飲み込んだアレミシアは、恍惚そうに表情をくずし、天を仰いだ。

それまでの言葉遣いからは考えられない姿に、その場にいた誰もが動きを止める。


「なにこれぇ……おいひぃ……はっ!?」

「お、お嬢様……」

「おほんっ。な、なかなかいけますわ」


 アレミシアはふと周りを見渡し、顔を真っ赤にしながら咳払いをする。

孝太は小さく笑ったあと、調理スペースへ向かった。


 そして、ルミと自分の分、執事たちのフルーツサンドを作っていく。


「ほら、待たせたな。ルミ」

「わーいっ!」

「ほら、あんたらも食えよ。せっかくだし」

「い、いいのか?」

「いいだろ? お嬢様よ」

「……好きになさい」

「だとさ。ほれっ」


 フルーツサンドを受け取った執事たちは、おそるおそる口へ運ぶ。

一口噛むと、イチゴとマスカットの酸味と風味が、ホイップクリームの絶妙な甘さを引き立てている。


「うまっ……」


 多くの言葉は出なかった。無心で堪能する面々を見て、人間って美味いものには逆らえないんだな、と孝太は苦笑した。


「ところであなた」

「なに?」

「……あの軽バンはなんですの?」

「あれはー……ん? 軽バン?」

「軽バンでしょう? 移動販売用にカスタムした」

「もしかしてあんた……」


 アレミシアはカフェオレを啜ったあと、妖艶な笑みを浮かべた。


「あなたと同じ場所からきた、と言えばおわかり?」

「マジかよ……」


 二人の間を、ひゅうっと風が吹き抜けてゆく。

孝太の頭の中を日本の景色が駆けめぐる。


 それは、孝太の気持ちを、少しだけ揺らしていた。

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