表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無敵の移動販売車で行く、ゆるふわ異世界親子旅 〜あ、どうも。コーヒー屋です〜  作者: TAKABE


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/13

さようなら、英雄

 筋骨隆々の男二人が、白銀の甲冑を着て後部の調理スペースに体育座りで座っている。

 どう見ても異質な光景に、孝太は笑いを堪えきれなかった。


「ぶはっ……」

「パパ、どうしたんだぞ?」

「いや、ガチムチ二人が縮こまっているのが笑えてな」

「せまそうだぞ!」


 ルミは振り返り、窮屈そうな二人へ微笑んだ。アバルトとカルロスは初めて体験する乗り物に緊張を隠せず、常に視線が泳ぎ続けている。


 そんな二人の英雄を乗せた軽バンは、砂塵を巻き上げ荒野を爆走していた。

 やがて街道が見えはじめ、街が近づいてきたことをしらせる。


「この道に沿っていけば、我が領主のいる街だ」


 アバルトは窓から遠くの山を見て、孝太へ方向を指示した。


「なんて名前の街なんだ?」

「ゴーヨクだ。銀の発掘で大きくなった街だ」

「そりゃー、金に汚そうだ」

「なぜだ?」

「領主が強欲そうだからさ」

「まあ……私の口からは何も言えんが」


 図星をつかれたのか、アバルトは黙り込んで、意味もなく剣を触りだした。恩義の兼ね合いで正直な気持ちを押し殺しているのか、表情は曇っている。


 カルロスは何か言いたそうだったが、アバルトの気持ちが理解できるようで、ひたすら流れていく景色を目で追っていた。


「お、あれか」

「おおきいまちについたぞ!」


 イナカル村とは比べ物にならない規模の街は、遠くから見ても建物で埋め尽くされていた。


「どっかに停めて隠しとかないとな」


 街から少し離れた森の中で車を停め、ここから歩いて領主の屋敷を目指す。

全員が降りたあと、孝太は車の鍵を締めてルミの手を握った。


「さて、行くか」

「おさんぽだぞーっ!」

「私が先頭を歩こう」

「ならば私は後ろを」


 アバルトは不意な戦闘に備え、幸太とルミを守るように先頭に立つ。カルロスもまた、同じ理由で最後尾に続いた。


 街は孝太の背丈ほどの柵で囲われており、入口らしき場所には門番が立っている。

門番はアバルトの姿に気づくと、動揺をあらわにした。


「あ、アバルト殿……お戻りですか」

「ああ。領主様にご報告があってな」

「ということは、カルロス殿を……」

「私はここにいるぞ」

「えっ……まさか、戦いをおやめに?」

「ああ。気になることがあってな。一時休戦したのだ」

「そうですか……」


 門番はアバルトへ近寄り、周囲の目を気にしながら耳元でそっと囁いた。


「……ダルキン子爵が屋敷にいらっしゃいます」

「……そうか」


 小競り合い中の貴族同士が密かに顔を合わせている。英雄による決闘までお膳立てしておきながら、明らかにそれは不自然だった。


「行こう」


 アバルトは表情を崩さず、街中へ足を踏み入れた。孝太とカルロスは一度だけ視線を交わし、なぜか悲しそうに見える背中に続く。


 街中には、銀の名産地らしく、華やいだ飾りつけが随所にみられた。

ひときわ目立つのは、子爵らしき中年男性の銀の像だ。


「悪趣味な像だな」


 でっぷりと腹の肥えた悪人面のそれに、孝太はげんなりしながら呟いた。

街並みは赤い煉瓦で綺麗なのに、これみよがしな銀の装飾が品を損ねている。


「……昔は違ったんだがな」


 アバルトは過去を思いだしながら、苦笑いをした。

この街が変わってしまったのは、領地内で発見された銀鉱のせいだった。


 悪いことばかりではない。銀鉱脈の発見で、街は一気に発展し、人口も爆発的に増えた。

以前の田舎領地と比べれば、生活水準も利便性も高くなっただろう。


 だが、昔から住んでいたものは、この街の変化についていけなかった。

街の片隅にある、世間から弾かれたような貧民街の多くは、先祖代々の土地を耕してきた先住民ばかりだ。


「そんな事情があるのか」

「ああ。貧民街が成り立っているのは、私が英雄として名を馳せたからだ」

「なるほどね。そりゃ、領主には逆らえんわなぁ」

「アバルト……」

「そんな顔をするなよ。カルロス」


 生い立ちを知らなかったのか、カルロスは複雑そうに顔をしかめた。


 やがて四人は領主の屋敷へ辿り着く。

白亜の荘厳な門構えは、アルドレアスの財力を見せつけるかのようだ。


「止まれ」


 門を守る衛兵が、四人の歩みを止める。

アバルトは一歩前にでると、屋敷の中まで届きそうな声で叫んだ。


「領主様にお会いしたい!」


 その迫力に、衛兵は後退りをする。


「通らせてもらう」


 金縛りのように動かない体へ何度も命令したが、衛兵は立ち塞がることができなかった。

静かに立ち昇るアバルトの怒りが、後ろを歩く三人にも伝わってきた。


 屋敷の中へ入ると、さすがに止めなければならないとメイドや使用人が袖を掴む。

しかし、そこらの一般人が英雄の歩みを止められはずもなく、アルドレアスとダルキンがほくそ笑む扉が開かれた。


「領主様!」

「おお……アバルトか。その方が来たということは、勝ったのであろう?」

「ちっ……負けおったか。カルロスのやつめ」


 アルドレアスは喜び、ダルキンは怒りを示す。

しかし、背後から現れたカルロスの顔を見て、二人は言葉を失った。


「残念ながら、決着はついておりません」

「き、貴様ら……!」


 アルドレアスはガラス製の灰皿を手に取り、アバルトへ投げつけた。

アバルトはそれを避けもせず、額から血を滲ませた。


「領主様。此度の決闘、本当に必要だったのでしょうか?」

「と、当然であろう!」

「しかし、互いの理由を重ねると、決闘まで至るようなことと思えません」

「それを決めるのは貴様らではない。飼い主である我々だ!」

「……飼い主?」

「英雄なぞ、所詮貴族の飼い犬よ! 黙って尻尾を振っておればよい!」

「……それが本音か!」


 ついに怒りの沸点に達したアバルトは、剣を握りしめた。今にも切り掛かりそうな雰囲気を壊すように、孝太はそっと前に歩み出る。


「なあ、あんたら」

「誰だ? 貴様は」

「通りすがりのコーヒー屋だよ」

「こおひい? 何者か知らんが、貴様には関係なかろう。引っ込んでおれ」

「関係ねーよ。ああ、もちろん関係ない。通りすがりだからな。だが、こいつらは飲まず食わずで二日も戦っていたんだ」

「だからなんだ?」

「その忠義に対する言葉はねーのかよ」

「あるわけなかろう!」

「だろうな。どうせ、お前らは賭けでもしてたんだろ? どっちが勝つのか、ってな」

「ぐっ……貴様……どこでそれを……」

「アルドレアス殿!」

「はっ!?」


 しまった、とアルドレアスが口元を隠したときには、アバルトの剣が唸りを上げていた。


「ーーっ! アバルト!」

「邪魔をするな! カルロス!」


 だが、かろうじて追いついたカルロスが、自身の剣で受けとめる。

その余波は、室内を揺らしそうな勢いであった。


「おちつくんだぞ!!」

「……ルミ殿」


 ルミは二人が喧嘩でもしていると思ったのか、涙を浮かべて叫んだ。

その声で我にかえったアバルトは、そっと剣を引く。


「……すまぬ」

「いや、気にするな」


 カルロスは胸を撫で下ろし、二人の子爵へ向き直った。


「英雄を用いた賭け事は違法行為であると知っておられますよね?」

「ふんっ! 証拠はなかろう!」

「……ここにきて開き直られますか」


 呆れたようにため息をついたカルロスの肩を叩き、孝太は懐からボイスレコーダーを取り出した。


「証拠はあるんだよなぁ。ここに」

「それは?」

「声を録音できる機……道具だ。やるよ」


 孝太が再生ボタンを押すと、アルドレアスが墓穴を掘った会話が流れ出した。


「お預かりします」

「くそっ……!」

「……お静かに」

「ぐっ!!」


 ボイスレコーダーを取り上げようと立ち上がった二人は、アバルトのひと睨みで、力なくその場で座り込んだ。


「アバルト、私は王都へ向かい、此度の決闘の顛末を報告してこよう」

「頼む。さて、子爵殿。処分が決まるまで、地下牢でお待ちください」

「うぅ……」


 それからしばらくして、子爵を牢へ入れたアバルトと、王都へ向かう準備を終えたカルロスは、孝太とルミを軽バンまで送り届けた。


「さて、行くか。ルミ」

「うん!」

「コウタ殿と出会えて助かりました」

「そうだなぁ、礼なら金貨百枚で勘弁してやろう」

「それは大金ですな」

「ははっ。まあ、ツケにしといてやるよ。また気が向いたら来るわ」

「お気をつけて」

「おう。あんたらもな」

「ばいばーい! おじちゃーん!」


 孝太は緩やかに軽バンを走らせ、手を振る二人に別れを告げた。

やがて軽バンが見えなくなり、アバルトとカルロスは顔を見合わせる。


「また来ると思うか?」

「いや……」

「私もそう思う」

「では、私は王都へ行ってくる」

「ああ、気をつけてな」


 二人はまるで雨があがったように、晴れやかに笑った。

ひとしきり笑ったあと、カルロスは王都へ向け歩き出した。


不思議な乗り物にのった、不思議な親子によって救われる。


 運命とはそんなものなのだろう、とアバルトは肩の力を抜く。


「神よ。彼らに良い旅を」


 そして、幸太とルミの旅路を祈り、街の中へ戻っていった。

二人が訪れたときのために、もっといい街にしておこうーーと決意しながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ