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無敵の移動販売車で行く、ゆるふわ異世界親子旅 〜あ、どうも。コーヒー屋です〜  作者: TAKABE


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3/13

こんにちは、エルフ

 イナカル村を出て、適当に走っていると、道端で倒れている女性を見つけた。


「パパ、だれかたおれてるぞ!」

「マジか。女の人だな」

「たすける?」

「昨今はな、命を救ってもセクハラだと言われてしまう時代なんだ」

「パパ、せくはらするの?」

「パパはしないぞ。ママにしか」

「じゃあ、だいじょうぶだぞ!」

「しゃあねえ……声だけかけてみるか。ルミは降りるなよ」

「うん。まってるぞ」


 街道脇に倒れていた女性へ近づいてみると、長い耳、白い肌、流れるような金髪に目が奪われる。


「エルフってやつか?」

「ん……」


 孝太の声に反応し、女性はうっすらと目を開けた。


「あのー……大丈夫っすか?」

「……ん……にん、げん?」

「そうです。通りすがりのイケメンです」

「ここは……」

「どこでしょうね。俺が知りたい」

「不思議な服装ね。あなた」


 女性は体を起こしながら、品定めするように孝太を眺める。


「俺の国では普通の服装なんすけどね」

「……もしかして″迷い人?″」

「まよいびと? なんすかそれ」

「この世界ではないどこからかやってくる……世界の異物」

「異物は酷すぎる」

「共通認識なのよ。気を悪くしないでね」

「……とりあえず、水でもいります?」

「ありがとう。いただけるかしら?」


 孝太は軽バンへ戻り、後部座席からペットボトルの水を取り出した。

 ルミはその隙に車を降り、興味津々といった様子でエルフへ近づいた。


「あっ、コラ!」

「ねえねえ、おねえさん」

「あら、可愛らしい」

「おっぱいおおきいね!」

「ちょっ……」


 ルミはエルフの胸元をガン見したあと、孝太へ振り返って微笑んだ。

 エルフは恥ずかしそうに胸元を隠し、孝太を睨みつける。


「見ないでください」

「えー……」

「だったらそんな薄い服、やめればいいのに……」

「み、民族衣装なんですっ」

「さいですか。とにかく、なんで倒れてたの? お腹すいた?」


 敬語を使うのが馬鹿らしくなり、孝太はまるで友達のように問いかけた。

 エルフは左右に首を振り、追われていたのだと説明をする。


「オークの集団に追われていたの」

「なるほど。エロいやつらに」

「なぜ知ってるの?」

「俺の世界でのオークは、そういう認識だから」

「あなたの世界にもいるのね」

「いるっちゃいる。だいたい女騎士が捕まって、くっ……殺せっ! って展開が多いよね」


 孝太が何気なく言うと、エルフの女性はまばたきを一度だけして、微妙な顔になった。

 通じないと思っていたネタが、變に刺さった気がして、孝太は視線をそらす。


「……あなたの世界も、結構大変なのね」

「いや、まあ……フィクションですけど」


 そう言いつつも、異世界の住民に「フィクション」を説明できる自信はなく、孝太は話題を切り替えた。


「で、本題。追われて倒れたって、ケガはしてない?」

「幸い、擦り傷だけよ。森を抜けて必死に逃げたから……力尽きちゃったの」


 女性は水を受け取り、喉を潤すように一口飲む。

 日差しに透ける金髪は、砂金の粉を散らしたようにきらきらしていて、孝太は一瞬だけ目を奪われた。


「パパー! そのおねえさん、たべものいるんじゃない?」

「まあ、腹減ってるだろうな。ほら、おにぎりもあるし」


 ルミが軽バンの扉を全開にしながら叫ぶ。

 まるでピクニックの始まりみたいなテンションだが、状況はそこそこ緊急である。


「あなたたち、旅の者なの?」

「旅というか……道路を流されてるだけというか……まあ、行き先探し中?」


 孝太が曖昧に答えると、エルフはほんの少し首をかしげた。

 その仕草は妙に洗練されていて、同じ「倒れていた人」とは思えない気品がある。


「……助けてくれたことには、感謝するわ。無礼があったら、ごめんなさい」

「いやいや。こっちも娘が変なこと言ってすんませんね。な、ルミ」

「おっぱいおっきかったぞ!」

「だから余計な情報を言うな」


 孝太は娘の頭を軽く押さえつけ、エルフへ向き直った。

 エルフは困ったように微笑み、胸の前で両手をそっと重ねる。


「私はシルフィア。森の出身よ。あなたは?」

「孝太。で、こっちはルミ」

「ルミだぞ!」


 シルフィアはふたりの名前を復唱し、小さく息を整えた。

 少しだけ緊張が解けたのか、表情が柔らかくなる。


「……ねぇ、孝太。お願いがあるの」

「お、なんだい? 結婚は少し考えさせてくれ」

「それは絶対にないわ」

「ぐぬぬ……」


 シルフィアは視線を落とし、森の方向をちらりと振り返る。


「追ってきたオークは、まだ近くにいるかもしれないの。ひとりでは戻れない……どこか、しばらく身を隠せる場所に連れていってくれない?」


 頼み方は控えめだが、その声には切迫した響きがあった。

 孝太は腕を組むふりをしながら、ルミと目を合わせる。


「……どうする? ルミ」

「たすけるぞ! パパ、ゆうしゃだぞ!」

「今、誰もそんな設定与えてないけどな……」


 とはいえ、目の前で倒れていた相手を見捨てるほど冷たくもない。


 孝太はため息をひとつつき、軽バンの鍵をカチッと鳴らした。


「よし。乗れるか? 運転は荒くないから安心しろ」


 孝太が軽バンのロックを開けると、シルフィアはビクリと肩を震わせた。

 先ほどまで柔らいでいた表情が、一瞬で張りつめたものへ変わる。


「……その、鉄の箱みたいなものは……なに?」


「ああ、これ? 車。乗り物。馬いらず」


 孝太があっさり答えると、シルフィアはさらに一歩さがった。

 森の中で獣に出くわしたときのような、静かな警戒。


「動くの? ……その、魔獣のように?」


「魔獣ほど愛嬌はないけど、まあ動く。エンジンっていう心臓みたいなのがあって」


「し、心臓が……?」


 言えば言うほど余計に誤解されていく気しかしない。

 孝太は頭をかきながら、言い方を変えた。


「生き物じゃない。ただの道具。鉄の箱が勝手に動くんじゃなくて、俺が動かすの」


 それでもシルフィアの不安はすぐには解けないようで、視線が車体を泳ぎ続ける。

 触れたら噛みつくと思っている顔だ。


「パパ、のりものだぞ! ルミ、いつも のってるもん!」


 ルミが両手を広げながら説明する。

 シルフィアはその無邪気な声に、少しだけ緊張を解かれたようだった。


「……子どもが乗れる、ということは……危険ではないのね?」


「危険なら俺が先に死んでるよ」


 孝太が苦笑すると、シルフィアはようやく近づき、車体にそっと手を触れた。

 冷たい金属の感触に驚いたのか、肩がぴくりと動く。


「硬い……馬車とも、鎧とも違う……変わった乗り物なのね」


「乗ってみればわかる。椅子がふかふかで、オークより優しい」


「比較対象がおかしいわ」


 ようやく軽いツッコミを返す余裕が出てきたらしい。


 孝太はスライドドアを開き、内装が見えるように手で示した。


「ほら、こんな感じ。檻じゃない。窓もあるし、すぐ出られる」


 シルフィアは慎重に覗きこみ、数秒間、息をひそめたまま観察する。

 逃げ道、天井、床の材質――あらゆるものを確認している。


「……本当に、閉じ込めたりしないのね?」


「しない。誘拐してもメリットないし」


「……変な自信ね」


 そう言いながらも、シルフィアは小さくうなずき、勇気を振り絞るように足を踏み入れた。

 金髪がひらりと揺れ、ようやく緊張の糸が少し緩んだように見える。


「……思ったより、暖かいのね。この中」


「文明の利器ってやつだ」


「不思議な文明ね……」


「まあ、その説明は後だ。とりあえず安全な場所へ移動しよ」


 孝太が運転席のドアを閉めると、シルフィアは小声で呟いた。


「……ありがとう」


 エンジンの震えが車内に広がり、軽バンはゆっくりと走り出した。

 助手席のエルフ――シルフィアは、抱き上げられたルミの体温を胸に感じたまま、窓の外を固い表情で見つめている。


「パパ、しゅっぱつー!」

「はいはい。安全運転ね」


 そんな呑気なやり取りをして数十秒。

 森を抜けかけたところで、前方の影が広がった。


 ――オークの群れが、道を塞いでいた。


「……うそ。もうこんなところまで来てるのね」


 シルフィアの細い指が、ルミを抱く腕に力をこめる。


「んー……まあ、いっか」


 孝太はまるでコンビニの混雑ぐらいの感覚でつぶやいた。


「パパ、ひいちゃうぞ!」

「おう。あいつらなら問題なし。向こう、完全に殺る気だし」


 オークたちは棍棒や丸太を掲げ、こちらへ威嚇の声を上げていた。

 だが車内の雰囲気だけが、妙にいつも通りだ。


「や、やられるわよ!?」


 シルフィアの声は震えていた。


「大丈夫大丈夫。こいつ、一応ドラゴンの攻撃にも耐えたから」


「……ドラゴンの、って何をどう耐えたの?」


「たぶん……いける」


「その“たぶん”が一番怖いのよ!」


 しかし孝太の足は迷わなかった。アクセルが踏み込まれ、軽バンは勢いよく加速する。


「パパ、いけー!」

「はいよー!」


 オークの怒号。

 振り上げられる棍棒。

 飛び散る泥。


 軽バンは真正面から突っ込み、ゴンッ! という衝撃音が車体を震わせた。

 棍棒は弾かれ、丸太は滑り、オークたちは跳ね飛ばされるように道の脇へ散った。


 シルフィアは息を飲んだまま固まっていたが、車はそのまま群れを切り裂くように走り抜けた。


「……ほら、いけた」


「いけてるけど……あなたたち、本当に何者なの……?」


「普通の親子。ちょっと車が強いだけ」


 道の先はすでに開けており、オークの影は遠ざかっていった。


「ん……?」


 しばらく走ったあと、不意に孝太は首を傾げた。


「どうしたの?」

「いや、ガソリンが減ってないんだよ」

「ガソリン?」

「こいつの燃料。餌みたいなもん」

「よくわからないけれど、あなたたちが他の世界から迷い込んだのなら……あり得るわ」

「どういうこと?」

「おそらく、だけど……この乗り物には、世界の理が通じないの。元の世界の状態が保存されているんじゃないかしら」

「つまり?」

「壊れないし、無限に走れるってことよ」

「チートすぎて草」


 太陽が沈み、あたりは段々と暗くなっていく。

 車のベッドライトを付けたが、見通しが悪く走りづらかった。


 孝太は車を止め、今日はこの辺りで夜を明かそうと提案する。


「腹も減ったし、ここらでキャンプだな」

「そうね。この辺りは魔物の気配はしないし」

「わかるんだ? そういうの」

「魔物や魔獣は独特の魔力を持っているから」

「すげえなー」


 軽バンの後部座席から、小さなテーブルと椅子を取り出し設置する。

 移動販売先でいつも使用しているそれは、折りたたみ式の便利なアイテムだ。


「コーヒーとサンドイッチでも用意するから、座って待ってな」

「わぁい! ルミね、あまぁいやつ!」

「野菜たっぷりにしとくわ」

「いーやーだーっ!」


 わがままを言うルミと、それをからかう孝太。

 そんな二人を、シルフィアは微笑ましく眺めていた。


 しばらく待つと、ベーコンと卵をレタスで挟んだサンドイッチと、淹れたてのコーヒーがテーブルに並ぶ。


 シルフィアはコーヒーをあからさまに警戒し、鼻へ近づけて匂いを嗅いだ。


「不思議な香りがするわ」

「ああ、コーヒーだよ。それ」

「こーひー……」

「今回は最初から甘くしといてやるよ」


 砂糖とミルクが注がれ、真っ黒だった液体は色を変えていく。

 シルフィアは恐る恐る口へ運んだ。


「ん……美味しいわね」

「パパ、それだけはとくいだぞ!」

「それだけ言うな。他にも得意なことはあるわ」

「なにかあるの?」

「逆上がりなら誰にも負けんぞ」

「パパ、すごいぞー!」

「ふふっ。このサンドイッチもすごく美味しいわよ」

「そりゃよかった」


 三人の穏やかな食事は、あたりの静けさも相待って平和だった。

 やがて食事を終えると、ルミはうとうとし始める。


「シルフィア、悪いんだけど後ろでルミと寝てくれるか?」

「わかったわ。あなたはどうするの?」

「俺は運転席を倒して寝るよ」

「そう……一緒に寝たらいいじゃない」

「俺も男だぞ。襲っちまうぞ?」

「あなたはそんなことしないでしょ?」

「どうだろうねー」

「はいはい。じゃあ、先に寝るわね」

「ああ。おやすみ」


 シルフィアはルミを抱き抱え、後部に敷かれた布団へ向かった。

 残ったコーヒーを啜りながら、孝太は満点の星空を見上げていた。


「なんか……久しぶりだったな。三人とかで食事するの」


 いなくなった妻とルミ、孝太で囲んだ食卓の風景を思い出す。


「どこにいったんだよ……絵美……」


 孝太は懐からタバコを取り出し、火をつけた。

 ゆらゆらと、タバコの煙が立ち上る。

 孝太はそれを、少しの間ぼんやりと眺めていた。

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