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無敵の移動販売車で行く、ゆるふわ異世界親子旅 〜あ、どうも。コーヒー屋です〜  作者: TAKABE


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10/13

こんにちは、海賊

 海岸沿いを走らせていると、軽バンでも高級車に乗ってドライブしているような、不思議な錯覚を抱く。


「うみーっ!」

「でかいよなぁ。あの先には何があるんだろうな」

「んー……ふぁみれすっ!」

「そりゃ、ご機嫌だな」

「ルミ、おなかすいたぞ」

「あー、そうだな。飯にするか」


 砂浜から離れた場所で車を停め、後ろに積んでおいた新鮮な魚たちを運び、砂浜で石を重ねて簡単な釜戸を作った孝太は、薪にするための流木をルミと集め始める。


「パパ、これ!」

「おう。それはなんだ?」

「えくすかりばー!」

「ルミは勇者様だったのか」

「わるものは、こうっ!」


 自分の身の丈はあろうかという細い木を左右に振り、ルミは駆け回って遊ぶ。

やれやれ、と孝太はため息をつき、乾いた流木を集めていった。


 やがて充分な量が集まり、金網を置いて火をつけた孝太は、炎が大きくなるまでに魚を捌いておこうと、クーラーボックスを開いた。


 やけにカラフルな魚たちは、あちらの世界でも南国あたりにしか生息していなさそうな、見慣れない色をしている。


 市場で聞いた話だと毒はなさそうだが、知らない魚には、やはり抵抗感を抱いてしまった。


「色がなぁ……スカイブルーだもんなぁ……カキ氷でしか見たことないわ」

「それ、たべられるの?」

「たぶん。ブルーマダイとか言ってたし」

「まだい! おいしいやつだぞ!」

「そうであることを願うわ」


 覚悟を決めて捌いてみると、中身は普通の白身魚で、安心すると同時に少しだけ残念な気持ちになった。


「んー……シンプルに塩焼きと、ホイル焼きにするかな」

「おさしみは!」

「刺身はやめとこう。ちょっと怖い」

「パパ、びびりだぞ!」

「人生ってのは臆病なくらいが上手くいくんだよ」


 そんなやり取りをしながら下ごしらえを終え、金網へブルーマダイを乗せると、魚の身に含まれていた油が溶け始め、食欲をそそる香りが立ち昇る。


「うまそうだな」

「おっさかな♪ おっさかな♪」


 待ちきれないのか、ルミは焦げ目がつき始めた魚を何度も箸でさわり、まだかまだかと持ち上げる。


「こら。そんなに触ると逆に遅くなるぞ」

「……そうだぜ。魚はじっくり焼いた方が美味いぜ」

「……どうしてこう、飯の度に邪魔がはいるかね」


 振り返ると、大柄な浅黒い男が仁王立ちしていた。

潮風を浴びてカサついた髪を後ろで纏め、右手に大きなモリを持っている。


「で、服はどうしたの?」

「はっはっは! クラーケンにとられちまったぜ!」

「ふんどし一丁は最先端すぎるわ。ちょっと待ってろ」


 鍛え抜かれた体を惜しげもなく晒し、白い歯を見せながら豪快に笑う男へ、孝太は軽バンに積んでいた長袖のシャツを渡す。


「ほら。これでも着てろよ」

「おお! 悪いな!」


 百九十センチはありそうな男には、中肉中背の孝太の服では小さすぎて、今にも弾け飛びそうなくらいシャツは引き伸ばされた。


「これはこれで気持ち悪いな」


 ふんどしとピチピチのシャツを身につけたマッチョは、さすがに目の毒である。


「すまんが、俺にも魚をわけてくれないか」

「ん? いいよ。たくさんあるし」

「はっはっは。お前はいいやつだなぁ!」


 ばし、ばし、と背中を叩かれ、孝太は反射的に前へ。力加減というものを知らんのか、と言いたそうに振り返り、ひとつ息を吐いた。


「はあ……で? あんたは何者なの?」

「俺はバリマス。海賊をやっている」

「海賊かぁ。その海賊さんが陸で何してんの?」

「小舟に乗って食料を調達していたら、クラーケンに襲われてこのザマさ!」

「クラーケンってなに?」

「でっかいイカだ!」


 ブルーマダイの塩焼きを口へ運びながら、バリマスは楽しそうに笑った。

おそらく馬鹿なんだろうな、と決めつけた孝太は、あまり関わりたくなくて適当に逃げようとした。


「じゃ、俺たちはこれで。残りは食っていいから」


 すっ、と手を挙げて別れを告げ、ルミの手を引いて軽バンヘ行こうとした。


「つれないこというなよ! はっはっは!」


 しかし、バリマスに回り込まれてしまった。


「いや、急ぐんで」

「はっはっは!」

「おい……」

「はっはっは!」

「いい加減にしろ!」

「つれないこというなよ! はっはっは!」


 方向を変える度に回り込まれて、さすがに鬱陶しくなった孝太は声を荒らげたが、バリマスは気にした様子もなく、ひたすら笑顔を浮かべている。


「はぁ……で? なんか用があんの?」


 さすがの孝太も諦めて、バリマスに用件を訊ねた。


「クラーケンを一緒に退治しようぜ!」

「いや、無理」

「おふね、のれる?」

「のれるぞー! 俺の自慢の船にな!」

「わーい! ルミ、てつだう!」

「おうおう! 今日からお嬢ちゃんも海賊だ!」

「だから、無理……」

「お前も来るよな?」

「パパもいくぞ!」

「……わーったよ。クソ」


 二人に強引に押し切られ、孝太は力なく首を縦に振った。

バリマスは狼煙をあげはじめ、それがもくもくと空へ広がると、遠くから髑髏マークを帆に描いた船が近付いてきた。


「お頭ーーっ!」

「おーい! こっちだぞー!」

「ねえ、パパ。おおきなふねだぞ!」

「そうだな。モロに海賊船だけどな」

「あくまのみ、あるかな?」

「あったらいいな。こいつらを全員海に沈めたいし」

「パパ、かげきだぞ!」


 海賊船は浅瀬の限界まで近寄り、小型の船をだしてバリマスを迎えにきた。

孝太は軽バンヘ移動し、どうにかしてこれに乗ったまま乗船できないかと考える。


「行くのはいいが、こいつも乗せてくれ」

「なんだその奇妙な箱は!」

「俺とルミの部屋みたいなもんだよ」

「ふーむ……よし、お前ら! 全員おりてこい!」


 バリマスに呼ばれ、海賊船から続々と人が降りてくる。

そして、海賊たちは軽バンの周りを数人で囲み、下から一気に持ち上げた。


「そいやーっ!」

「力任せにもほどがあんだろ」


 小舟を四隻ならべ、その上に置かれた軽バンは、海賊船から垂らされた数本のロープで縛られ、人力で甲板まで持ち上げられた。


「さあ! 行くぞ! えーと、名前なんだっけ」

「俺は孝太。こっちがルミ」

「よし! 孝太、ルミ! 出発だ!」

「おーっ!」

「はぁ……」


 軽バンと孝太、そしてルミを乗せた海賊船は、弱い風を帆で受けて、じわじわと陸から遠ざかっていった。


「おふね、のれたね!」

「ソウデスネ」


 無邪気に船旅を楽しみはじめたルミを見て、頭痛がした孝太は、ひとり頭を抱えたのだった。

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