19992000
今日は、1999年、12月28日。店の仕事も忙しい。常連さんも多いが、日頃、見ない客もいる。俺がレジで、煙草を売り終わり、事務所に戻ると、正直、驚いた。
「薫、このお姉さん、今日から、バイトで来てくれる、椎名亜希子さん、よろしくな」
「え、姉ちゃん、アクセサリー屋さんで俺に指輪、売ってない」
「はい、あそこ、辞めました。私、びっくりした。お兄さんが、ここで働いてるなんて」
「まあ、それは、ええけど、何で、辞めたん」
「指輪とか現金とか触ることが、なんか、嫌になって。それにコンビニ好きやし」
「そうか、まあ、思った以上にキツイケド、よろしくな。俺、森川薫、いいます。まあ、レジ、教えるわ」
「はい」
亜希子ちゃん、ええ子やな。コンビニも、今の時代、癒される人が多いかも。亜希子ちゃんと立ち話。歳も俺と一緒。何か、絵が好きらしい。映画も。二人、笑って、話す。さてさて、警察の登場や。この前の警察官がやって来た。
「兄ちゃん、この前は、すまんかった。もういっぺん、聞くけど、中島との関係は、それだけなんやな。何か、個人的に恨みを買うとか」
「ないですよ、そんなん。あんな奴と関わりたくもない」
「そうか。わかった。じゃあ、言うわ。中島が死んだ。首吊って」
死。中島が。ええことなんか、悪い事なんか、よくわからん。警察官から話が進む。一旦、事務所へ親父と警察官と三人で移動する。俺は、煙草を咥える。そしたら、警察官が、俺を一瞬、睨んだ。
「中島はずっと、留置所の中で、森川薫は悪い奴や。あんなんが画家やなんて許せん。と言うてた。最期、森川、死ね、言うて、首吊ったわ。ほんまに、中島と何もないんか」
「ない言うたらないです。俺は嘘は吐きません。中島の被害妄想でしょう、そんなん」
「わかった。俺も煙草、吸うて、ええか」
「いいですよ」
中島の死。首吊り。これ、警察にも責任あるんちゃうか。それより、斎藤さんを殺そうとした理由がわからん。俺は、缶コーヒーを空けて、一口飲んだ。親父とこの警察官は話し続けている。中島が死のうが生きようが俺には関係ない。俺は死なへん。俺は画家や。別に中島が許せんって言うても。もう、関わりたくない。こんなことに。俺は、弓枝を抱きたくなった。弓枝に、店まで来てくれと電話を入れると、すぐ行くと返事があった。
「薫さん。その中島の事件、ニュースで見ましたよ。酷いですね。もう、そんな奴、ほっときましょう」
「せやな。亜希子ちゃん、何か、楽しいほうがええよな」
「そうですよ。私、彼氏もおらんけど」
「へえ。亜希子ちゃん、モテそうに見えるけどな」
「そんなことないですよ。全く。薫さんは彼女、いるんですか」
「おるよ。今からここに俺を迎えに来てくれるんよ」
「ふうん。いいですね。薫さんの絵、また、見せてくださいよ」
「うん、ありがとう、ええで」
弓枝が来てくれた。今日は、弓枝を抱きたい。何か、弓枝が持っている、大きな包容力に包まれたい気がした。弓枝の助手席に乗って、須磨のラブホへ向かう。
「薫。あんまり、中島の事、気にしたらあかんで。あんなん、死んだらええ」
「うん。わかった」
信号待ち。弓枝とキスをする。俺は、幸せ者や。中島、堂々と言うたるわ。俺はお前のために生きてない。死を選ぶのは弱い証拠。俺は、弓枝と二人、ベッドの上で。弓枝に抱きしめられて。




