欲と俗と風
家に帰る。部屋に戻る。煙草を吸う。コーヒーを飲む。いつもと一緒だ。ただ、今年は違う。中島の件と弓枝という大事な人が俺にも出来たということ。絵を描く。また、絵を描く。今度は青と白のカラースプレーで海をイメージした絵を描いた。また、溜め息。部屋には賞状と弓枝の匂い。いい女だ。24歳の初恋なんて笑えるだろう。俺も笑うことにした。上手く笑えはしないけど。師匠の絵に対するテーマは、「退屈」だ。師匠は、脳も心も退屈でないと、いい絵は描けない。心も病んだほうがいい。と口癖のように言う。そうなのかもしれない。師匠の絵は高くで売れている。しかし、師匠はお金の自慢などしない。自分の経歴も偉そうに話したことなんてない。夜か。クリスマス。何故、絵を描くのか。それは俺にもわからない。ただ、中島の事が気になる。何故、俺に執着するのだろうか。こんな、悲惨な事件まで起こして。風に吹かれた気分だ。ただ、気になる。さっきのアクセサリー屋の姉ちゃん、可愛かったな。忙しそうだった。商売繁盛。俺もコンビニが、どうやったら、もっと、儲かるかを考える。皆の力が必要だ。真美の力も。神崎さんの力も。勿論、斎藤さんの力も。斎藤さん、無事に復帰してくれよ。心から、斎藤さんの無事を祈った。何よりも大切なことだ。仲間。俺は、トイレで小便を済まして、ベッドで横になった。今日はイヴか。とんでもない、メリークリスマス。眠ってしまおう。
「薫、指輪なんて」
「いや、気持ちや。俺からの」
「ほんま、ええの」
「ええに決まってるやん」
「私、男の人に指輪なんて、貰うの今日が初めてやわ。ありがとう。こんな、大変な時に」
「うん、弓枝が喜んでくれるんやったら、俺は、それで構わへんよ」
「これ、チキン。さっき、家で揚げてきた。唐揚げみたいなもんやけど、二人で食べよう」
「うん、ありがとうな。食べよ。食べよ。今日はクリスマスや」
弓枝とチキンを食べる。本当に、よく、考えた。幸せってなんや。チキンが美味い。ワインもある。キリストは幸福やったんやろうか。俺は弓枝を抱いた。生きてる。生きてる証。生きてるという事実。セックス。ベッドには裸の男と女がいる。