エピソード7
アオイは歯を食いしばり、幽霊を睨んだ。
「……いい加減にしろ。お前が何をしたいのか、もうわかってる。でもな、俺だって元に戻りたいんだよ。」
幽霊は冷笑を浮かべる。
「戻りたい? そんな簡単にいくと思うのか?」
「だったら教えろよ。どうすれば元に戻れるんだ?」
幽霊はアオイをじっと見つめた。
「いいだろう。条件は一つだ。」
少年の声が低く響く。
「このまま二週間が過ぎれば、お前は一生そのままだ。でも――」
幽霊はふっと笑い、言葉を続ける。
「もし、俺の呪いを解きたければ……俺が望むことをやってもらおうか。」
「……で? 俺に何をさせたいんだよ。」
幽霊は静かにアオイを見つめた。
「二週間以内に、俺の未練を晴らせ。それができれば、お前を元に戻してやる。」
アオイは眉をひそめる。
「未練……?」
「俺を追い詰めたやつらを、俺の代わりに裁け。」
その言葉に、アオイの体が強張る。
「復讐しろってことかよ?」
「選択肢はない。お前が何もしなければ、そのまま一生女として生きるだけだ。」
幽霊の声は冷たかった。
「さあ、どうする?」
アオイの心は激しく揺れ動いていた。
幽霊はアオイの戸惑いを楽しむように微笑み、続けた。
「ターゲットは三人いる。」
アオイの喉が鳴る。
「三人……?」
「そうだ。俺を最も追い詰めた三人。お前も名前を聞けば思い出すはずだ。」
幽霊は指を立てて、一人ずつ名を挙げた。
「一人目は、堂本翔。俺の教科書を破り捨て、授業中に俺を笑いものにしたやつ。」
アオイの脳裏に、クラスの中で悪びれもせず教科書を踏みにじる男の顔が浮かんだ。
「二人目は、川瀬優奈。表向きは優等生だったが、影で俺を孤立させるよう仕向けた。」
可憐な笑顔の裏で、陰湿に噂を流していた少女の顔が、記憶の奥から蘇る。
「そして三人目……お前の親友、高橋正一。」
「……は?」
アオイは思わず息を飲んだ。
「待てよ、正一が……?」
「そうだ。お前は知らなかったかもしれないが、あいつは俺の最後の希望を潰したんだ。」
幽霊の目が、深い怨念に染まる。
「三人に“相応の報い”を受けさせろ。それが、お前の役目だ。」
アオイは拳を握りしめた。
「……正一が、関わってたってのかよ?」
アオイは幽霊を睨みつけた。
「証拠はあるのか?」
幽霊は冷たく笑う。
「信じたくないのはわかるが、事実は変わらない。お前の親友は俺を見捨てたどころか、俺の最後の頼みを踏みにじった。」
「……最後の頼み?」
幽霊はスッと手をかざし、闇の中から別の記憶を呼び出した。
――昇降口。
震えながら正一に何かを訴える幽霊の姿。
「助けてくれ、頼む……もう誰も信じられないんだ……」
しかし、正一は冷めた目で幽霊を見下ろしていた。
「悪いけど、俺には関係ないから。」
そう言い残し、彼は去っていった。
アオイの胸が締めつけられる。
「……そんな……」
信じられなかった。だが、目の前の映像は確かに示している。
アオイは唇を噛みしめ、携帯を取り出した。
「……正一に、直接聞く。」