エピソード6
「やっと、気づいたな……アオイ。」
低く、静かな声。
アオイの心臓が跳ね上がる。
「……お前、誰だ?」
少年はゆっくりと歩み寄る。
「忘れたのか? 俺を。」
その言葉と共に、アオイの頭に鋭い痛みが走った。
ぼんやりとした映像が浮かぶ。
――教室の片隅。
震える少年を囲む自分と数人の仲間。
「お前、ほんとに情けねぇな。」
自分の声が、過去の記憶の中で響く。
「まさか……」
アオイの額に冷たい汗が滲んだ。
幽霊の少年は微笑んだ。
「思い出したか? 俺のことを。」
その時、新たな記憶が流れ込んできた。
少年が、一人きりで教室に座っていた光景。
机の上には、ぐちゃぐちゃに破られたノート。
誰かが、悪意を持って破ったものだった。
「……こんなこと、俺はやってない……」
アオイが呟くと、幽霊の少年は冷たく笑った。
「そうだな。お前は手を下していない。でも、見て見ぬふりをしたんだ。」
別の記憶が蘇る。
クラスメイトたちが少年をからかい、教科書を取り上げる。
少年は必死に取り返そうとするが、誰も助けなかった。
そして、その場にいた自分。
「俺は……」
アオイは震えた。
「お前が直接やったわけじゃない。でも、お前が黙っていたことが、俺を追い詰めたんだ。」
幽霊の少年の目には、深い恨みと悲しみが宿っていた。
「だから、俺はお前を罰することにした。」
アオイの胸が締めつけられた。
「……俺は、どうすればいいんだ?」
小さな声で呟いた。
罪悪感が心にのしかかる。
今更、謝るだけでは何も変わらない。けれど、どうすれば償えるのかも分からない。
幽霊の少年はじっとアオイを見つめていた。
「それを、お前自身が考えろ。」
少年の姿が、ぼんやりと揺らぐ。
アオイは、ただ立ち尽くすしかなかった。