エピソード5
「……クソッ!」
まさか、こんなことが本当に起こるなんて。
その時だった。
ふと、背後の空気が冷たくなる。
ゾクリと背筋が凍るような感覚。
アオイは振り返った。
闇の中に、ぼんやりとした影が浮かび上がる。
最初は輪郭が曖昧だったが、徐々に形を持ち始めた。
それは、一人の少年だった。
制服姿のまま、青白い顔をした少年がこちらを見つめていた。
「やっと、気づいたな……アオイ。」
低く、静かな声。
アオイの心臓が跳ね上がる。
「……お前、誰だ?」
少年はゆっくりと歩み寄る。
「忘れたのか? 俺を。」
その言葉と共に、アオイの頭に鋭い痛みが走った。
ぼんやりとした映像が浮かぶ。
――教室の片隅。
震える少年を囲む自分と数人の仲間。
「お前、ほんとに情けねぇな。」
自分の声が、過去の記憶の中で響く。
「まさか……」
アオイの額に冷たい汗が滲んだ。
幽霊の少年は微笑んだ。
「思い出したか? 俺のことを。」
その時、正一が一歩前に進み、冷静な声で言った。
「待て。いきなりこんなことを見せられても、混乱するだけだ。」
幽霊は正一を睨んだが、彼は構わず続けた。
「アオイ、お前が過去に何をしたのか、ちゃんと思い出す必要がある。でも、感情だけで動いたらダメだ。」
アオイは肩で息をしながら、正一の言葉に耳を傾けた。
しかし、次の瞬間、アオイは拳を握りしめて幽霊を睨みつけた。
「……本当に俺だけが悪いのか?」
幽霊の表情が変わる。
「お前……何を言ってる?」
「俺は確かにお前に酷いことをした。でも、それだけじゃないはずだろ? お前が何をされたのか、全部俺だけのせいなのか?」
アオイの声には、怒りと戸惑いが入り混じっていた。
幽霊はしばし黙り込んだ後、低く呟いた。
「……なら、思い出させてやるよ。本当のことをな。」
次の瞬間、アオイの視界が歪み、過去の記憶が再び流れ込んできた。