エピソード22
事件が終わった後、正一は幽霊が残したノートを大切に保管していた。
「……忘れさせないために。」
そう呟きながら、正一は学校に記念碑を設置する活動を始めた。
最初は周囲の反応は冷ややかだったが、アオイと共に幽霊の真実を語ることで、次第に賛同者が増えていった。
「これは、彼が生きていた証なんだ。」
正一の言葉には力がこもっていた。
やがて、学校の隅に小さな記念碑が建てられることが決定した。
「これで、本当に終われるのかもな。」
アオイが記念碑を見つめながら呟く。
正一は静かに頷いた。
「誰も忘れないようにする。それが、俺の約束だ。」
幽霊の存在は消えてしまったが、彼が残した思いは、こうして形として残ることになった。
事件が終わり、日常が戻った。
しかし、アオイの中には一つの疑問が残っていた。
「……俺、このままでいいのか?」
髪は肩まで伸びたまま、声も完全には元に戻らず、女性としての特徴が微妙に残っている。
「元に戻る方法を探すか……それとも、このまま生きていくか……。」
アオイは自分の姿を鏡で見つめながら、ぼんやりと考えた。
「なあ、正一……俺、どうすべきだと思う?」
正一はアオイの問いに一瞬だけ驚いた表情を見せるが、すぐにいつもの軽口を叩いた。
「どっちでもいいんじゃねぇの? 俺は今のアオイも悪くねぇと思うけどな。」
「お前な……真面目に答えろよ。」
「真面目だって。」
正一は肩をすくめる。
「結局、決めるのはお前だろ? でもさ、今のお前、そんなに悪い顔してねぇぞ。」
アオイは少し黙った後、小さく笑った。
「……そうかもな。」
完全に戻る道を探すべきか、このまま受け入れるか。
まだ答えは出ていない。
だが、アオイの中で「このままでもいいかも」という気持ちが、少しずつ大きくなっているのを感じていた。
夕焼けの校門前。
事件は終わった。幽霊の未練も晴れ、アオイの体もほぼ元通りになった。
だが、まだ少しだけ変化が残っていた。
「……まあ、お前がどっちで生きようが、俺は別にいいけどな。」
正一がポケットに手を突っ込みながら、肩をすくめる。
「お前な、もう少し気の利いたこと言えねえのかよ?」
アオイがツッコミを入れながらも、どこか嬉しそうに微笑んだ。
正一も口の端を少しだけ上げる。
「ま、そういうことだ。お前はお前のままでいい。」
アオイは軽く息を吐いた。
「全ては終わった……けど、新しい日常が始まる。」
そう呟きながら、二人は並んで校門をくぐる。
風が優しく吹き抜け、遠くから部活動の声が聞こえた。
日常は続いていく。
それが、アオイにとっての新しい人生の始まりだった。




