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蛇に睨まれた蛙は後の先を取る為に敢えて動かない

 蛇系モンスターで注意すべきは噛みつき、尻尾攻撃、毒や麻痺等の状態異常くらいか。あと蝶みたいな羽だし鱗粉も警戒しとくか。

 遠距離攻撃はないと思うから、射程外から魔法を撃つのが最善ではあるけど、今のDEXでは離れすぎると動きながら魔法を当てる事ができない。


 敵のステータスがわからない以上、一発でも食らったらアウトと考える。

 付かず離れずを維持しながら魔法で削り切る。それしか方法はない。


「【切り裂け、ウィンドカッター】」


 魔法は当たったけど、削れたのは数ドットだけ。これMP足りるかな。


 戦闘中はMPは自然回復しない。回復アイテムは【魔水の小瓶】が二つだけ。【ウィンドカッター】より威力の高い【ファイアボール】を使った方がよさそうだ。その為にはもう少し近づかないといけない。


 一歩踏み出したのと同時に、ピクシースネークの顔の前に風が集まる。それは刃の形を作り俺の方へ打ち出された。


 魔法も使うのかよ! いきなり前提が崩れたが?


 風の刃を横にステップして躱す。


「【焼き焦がせ、ファイアボール】」


 ただ、魔法を撃った後は隙ができるようで、火球はピクシースネークの顔面を捉えオレンジのダメージエフェクトを散らす。


 クリティカルのダメージから逆算して導き出された答えは、MPが足りない。今の俺がピクシースネークを倒す為には、一発も外さない事は大前提として、半分はクリティカルを出さないといけない。それも、魔法を避けながらだ。

 AGIは俺の方が高いから距離を取る事はできるけど、魔法の射程は多分同じくらいだろう。ピクシースネークの射程外からチクチク刺し殺す作戦は使えなくなった。


 師匠め、とんでもない試練を用意してくれたものだ。面白い! 難易度が高いほど燃えるのがゲーマーって生物だよなあ!







 どれ程の時間が経っただろうか。少なくとも、師匠が座り込んで剣の手入れを始めるくらいの時間は経っている。


 俺の前には、自慢の桜色の皮膚のほとんどが焼け焦げたピクシースネーク。残りHPはほんの僅か。【ファイアボール】一発で削り切れる程だ。かといって、【ウィンドカッター】では削り切れないだろう。MPが切れているのか、暫く魔法は使っていない。


 一方、俺は何度かピクシースネークの攻撃を受けてHPは二割を切っている。因みに、このゲームは味覚も嗅覚も再現しているが、痛覚は再現していない。代わりに、ダメージを受けると痺れたような感覚がある。それはそれで厄介だけど、痛みがあるよりはマシだろう。


 回復アイテムは底を突き、残りMPは魔法一発分。これを外せば俺の負けだ。STR0の俺では物理攻撃でダメージを与える事はできない。


 俺とピクシースネークは、三メートル程の距離を開けてにらみ合う。


 先に動いた方が負ける。


 漫画とかでよく見るけど、その度に先に動いた方が有利だろ、と思っていた。しかし、それは間違いだった。

 この間合いは、お互いが相手の攻撃を躱せる距離だ。先に動けば躱されて、その隙に攻撃を受ける。この勝負に勝つには、相手が動くのを待つか必中距離まで近づく必要がある。つまり、間合いを見誤った方の負けだ。


 じりじりと距離を詰めていく。彼我の距離が二メートルを切った瞬間、ピクシースネークが飛びかかる。


 俺は横にステップしてそれを躱す。無防備な横腹に魔法を叩きこもうと杖を向ける。しかし、ピクシースネークは尻尾を地面に叩きつけ急ブレーキをかける。更に、体を捻り俺の首に鋭い牙を突き立てんと首を伸ばす。


 随分と賢いAIだ。この場面でフェイントを入れてくるなんてな。けど、残念だったな。STR0でも、パリィはできるんだよ!


 ピクシースネークの牙を杖で弾く。ピクシースネークの頭と右手に持った杖が大きく後ろに弾かれる。


 ピクシースネーク。なかなかに強敵だった。乱数次第では俺が負けていてもおかしくなかった。だが、勝ったのは俺だ。


 左手を突き出し手のひらをピクシースネークの頭に向ける。指の隙間から黄色い瞳の中の細い瞳孔と視線が合った気がした。


「【焼き焦がせ、ファイアボール】」


 火球は的確にピクシースネークの頭を捉えオレンジのダメージエフェクトを散らす。更に後ろに弾かれたピクシースネークは不自然に動きを止め、ポリゴンとなって四散した。


「……終わったー!」


 その場に仰向けに倒れると、ピコンピコンと通知が鳴る。レベルアップとクエスト達成の通知みたいだ。


 お、一気にレベル3も上がった。ドロップアイテムもウハウハだぜ。【妖精蛇の牙】に【妖精蛇の桜皮】、【妖精蛇の薄羽】。そして、レアっぽい【妖精蛇の氷舌】。氷要素なかったけど。もしかしたら、HPが少なくなったら氷系の魔法を使っていたのかもしれない。その前にMPがなくなったのかな。


「時間のかかり過ぎだ」


 頭上から師匠の声が聞こえる。体を起こし、師匠に向き直る。見上げた師匠は、はっきりとわかる程の笑みを浮かべていた。


 は? 尊い。死ぬ。尊すぎてHP全損するわ。は! スクショ!


「だがまあ、及第点はくれてやろう」


 両手で作った四角の奥から師匠の顔が近づいてくる。ぽんぽん、と頭に軽い感触が。


 え? 今もしかして頭撫でられた?


「グハッ!」


 胸を押さえて倒れる俺を、師匠は冷ややかな目で見下ろす。


「……何をしている。遊んでないで、帰るぞ」


 その切り替えも素敵です、師匠!



 街に帰る道中、ステータスを確認していると何故かSPが11もあった。レベルアップで貰えるSPは3の筈。あれか、レベルが5の倍数の時はいっぱい貰えるとか、そんな感じのやつかな。


「師匠、やっぱりSTR上げた方がいいですか?」


 隣を歩いていた師匠は横目で俺を見る。


 普通に聞いちゃったけど、師匠はステータスが俺と連動している事知ってるのか? というか、そもそもステータスって概念があるのか?


「力はお前には必要ないだろう。お前に必要な能力を伸ばせ。私はそれに合わせて戦い方を変えるだけだ」


 通じた。しかも、俺の必要ステータスを把握している。流石師匠だ。


「じゃあ、どのステータスを上げてもいいですか?」

「そうだな。まあ、強いて言うなら敏捷を優先して上げれば私の理想の動きができるな」


 それは好都合だ。体感、DEXは30くらいあれば思った所に魔法は飛ぶ。そこまで上げたらあとはINTとAGIに振るつもりだった。


「分かりました! 任せてください!」


 成長方針が決まったところで、SPを振るとしよう。溜めてても仕方ないしね。



 PN:サンリッチ〈弟子〉 Lv.6 EXP【92(140)】 クラスⅠ


 職業:メイン【魔術師】 サブ【無し】


 ステータス:HP【100】 MP【142】 ST【100】 STR【0】 VIT【0(+3)】 INT【42(+10)】 DEX【22】 AGI【28】 LUK【25】


 スキル:【スリップステップⅠ】


 魔法:【ファイアボールⅢ】【フレイムバレットⅠ】【ウォーターロックⅠ】【アクアバレットⅠ】【ウィンドカッターⅠ】【エアリアルバレットⅠ】【ロックウォールⅠ】【ストーンバレットⅠ】【ヒールⅠ】【キュアⅠ】


 装備:武器【魔術師の杖】

    頭【装備無し】

    胴【冒険者の服】

    腕【装備無し】

    腰【冒険者のスカート】

    脚【冒険者のブーツ】

    アクセサリー【装備無し】【装備無し】【装備無し】【装備無し】【装備無し】


 称号:【強敵狩り(ジャイアントキリング)



 なんかいっぱい増えた。新しいスキルを一つ魔法を四つも覚えて、【ファイアボール】のレベルが一気にⅢになった。あとなんか称号も増えてる。


 【強敵狩り】ね。たしかにピクシースネークは強かった。取得条件、レベル差10以上の敵を倒すって事は、あいつレベル13以上だったのか。よく勝てたな。

 効果は自分よりレベルの高いモンスターが寄って来やすくなる。うん、まあ、デメリットではないから良し。


 これ、師匠も【強敵狩り】手に入れたのかな。

 あるね。あと【瞑想】とかいうスキルが増えてるね。


 師匠、俺が戦ってる間瞑想してたの?

【強敵狩り】

 それは、強き者に立ち向かう勇気と、討ち果たす力を兼ね備えし者。強き者の血を吸った牙は更なる強者を呼ぶ。


取得条件:パーティー内の最大レベルより10以上レベルが上のモンスターを倒す。


効果:パーティー内の最大レベルよりレベルが上のモンスターとエンカウントし易くなる。


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