P-1 [良知 とは何か]
恐怖は疫病のようにこの ポトト (Pototo) という国境の町に広がっていた。
新しく即位した魔王が自ら軍を率いて、魔王軍が全軍出撃し、間もなくこの町に迫る。
駐屯している騎士団は自分たちが崩れ落ちないように、必死で武器を磨き、城壁を強化していた。たとえ10秒でも長く持ちこたえるために。
(あと10秒持ちこたえれば、援軍が来る)
兵士たちはそう考えていた。
しかし、前線から伝わる噂は、全く手を休めさせることができなかった。
夕陽の下で
「すみません、兵士さん!」
少し不安そうな声が小路を急いで歩いている袋を背負った兵士を呼び止めた。
「?」
兵士は振り向いて、約6歳くらいの小さな女の子を見下ろし、言った。
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
「いつも私たちを守ってくれてありがとう」恐怖を感じながらも、女の子は輝くような笑顔を見せ、ポケットから封筒を取り出し、兵士に差し出して言った。
「...これを前線のお父さんとお兄ちゃんに届けてくれませんか?」
「!」
雲に遮られた陽光が兵士の顔に当たらなかった。
「歩美!」
若い女性が買い物カゴを持って急いで近づいてきた。
「今は兵士さんの仕事を邪魔してはいけません。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「守って...」兵士は頭を下げて、小さな声でつぶやいた。
「え?」
「もう、何も残っていない...」
空洞の目で遠くを見つめ、兵士は手に受け取った手紙を握りしめ、つぶやいた。
「何を言っているんですか?」
この母親は自分の想像が正しくないことを願った。
しかし
「...明らかに数量が大幅に減少した鎧、血と髪の毛だけ...。骨すら見つからなかった...」
母親は口を押さえ、息を呑み、もう一方の手で娘を抱きしめた。
「うそ...うそでしょ!?」
「...これが悪魔だろう?」
空虚な声で言い、手紙を握りしめる。兵士は一方の手で手紙を強く握り、もう一方の手で腰の剣に手を伸ばした。
「誰も悪魔からは逃れられない。平民も貴族も...。私があなたたちを家族に会わせてあげる...」
剣が鞘から抜かれたが、かつての光はなく、まだ暗くなっていない血の跡が残っていた。上から母娘に振り下ろされた--
母親は本能的に娘を抱きしめ、前に立ちはだかった。
「俺に任せてくれませんか?」そばの空気が軽い口調で言った。
(誰だ)
三人の心に恐怖と疑問が交錯した。
(ありえない、全く気づかなかった)
兵士の心には恐怖が疑問を飲み込んだ。
ゆっくりと、ゆっくりと、皆は声の出所を見た。
黒いマントを身にまとい、腹部、腕、脚には鱗のような軽い鎧が見え、目と鼻梁だけが露出していた。漆黒の髪、黒い眉毛、そして全身よりもさらに黒い、深い瞳。
(怖がるな、怖がるな!そうだ、その通り!何も怖くない、声と体格から見て、ただの少年に過ぎない)
(まず彼を倒し、その後この二人の女性を片付ければ、誰も私が逃げたことを知らないだろう...)
兵士は心の中で自分にそう言い聞かせ、黒衣の人に大声で言った。
「私は ポトト 駐屯の騎士大隊 第13小隊 副小隊長-- ローセン(Loseng)だ。民の安全を守る者として、あなたをスパイの疑いで強く疑っている。身分証明書を直ちに提示するよう要求すせ!」
「身分証明書を家に忘れた と言ったら、そんな理由を受け入れるかい?」
黒衣の人はからかうように言った。
「それなら一緒に来てもらうしかないな。」
副小隊長ローセンは凶悪に言った。
「拒否する」
黒衣の人は淡々と言った。
「それなら失礼する----」
ローセンは早くこの場を終わらせたくて、手に持った剣を強く速く黒衣の人に斬りつけた。
「!!! 消...消えた!」
一瞬で黒衣の人が消えた。
「くそ、どこに行ったんだ...うぐ...!」
ローセンは一口血を吐き出し、胸を貫く長槍を見た。その水晶のような槍の先端は、まるで氷に苺シロップをかけたように真っ赤な血で染まっていたが、この比喩はローセンには理解できなかった。
「何...どういうことだ...、お前は一体...?」
意識を失いかけたローセンは、もがくように黒衣の人の顔を見ようとした。
「守るべき民を傷つけるなんて、人族って本当に醜い。」
黒衣の人は冷たく言った。
「ま...!」
ローセンは自分の頭に浮かんだ事実を信じられず、この時水晶の槍の先端が赤い光を発した。
『【もえつきる(Burn Up)】』
黒衣の人が低くつぶやき、空気が急速に膨張する音と共に、激しい炎が槍の周囲の全てを飲み込んだ。
炎の光が深い黒い瞳に反射したが、そこには何の揺らぎもなかった。
数秒後、焼け焦げた鎧、剣と灰だけが地面に残った。
再び閃光が走り、黒衣の人は長槍を空中に消し去り、顔色を失った母娘を見た。
黒衣の人が自分を見つめているのを見て、母親は全身を震わせ、残りの力で言った。
「お...お願い...娘を見逃して、私は...私は何でもします!」
「はぁ...」
黒衣の人は軽くため息をついた。陽光が再び現れ、黒衣の人の顔に当たり、影の中で縮こまっている二人を見つめて言った。
「では、家族に会いに行きなさい~」
そう言って、一団の影が二人を飲み込んだ。
黒衣の人は反対方向に、城門へと向かった。