よろしく
ぼくは、2年生になった。
学校に入るまで、ぼくは2年生というものをしらなかった。だから、毎年、新しい1年生と、前の1年生と、前の前の1年生と…で、教室の中があふれかえるんだと思っていた。
でも今は、1年生の次は2年生、その次は3年生であることを知っている。ぼくは、ひび、学んでいるのだ。
そんなある日、マンションの入り口のよこにある木のかげに、ダンボールばこを見つけた。何だろう。はこのふたには、『よろしくお…いします』と書いてある。ぼくの知らない漢字だ。こまった。でも、“よろしく”ということは、だれかに何かをたのんでいるんやと思う。たぶん。
だれに“よろしく”って言うてるんやろう、と考えながら、はこの中をのぞいた。小さいおさるさんみたいなのが、もそもそうごいている。これは…赤ちゃん?
お母さんをつれて来ると、お母さんは赤ちゃんをかかえながら、こまった顔をしている。
「赤ちゃんはお母さんが何とかしておくから、ゆうたは学校行っておいで。」
ぼくを見てにっこりわらいながら、お母さんは言う。
知ってるよ、ぼく。お母さんのその顔、ぼくにはわからへんように、考えごとをしているときの顔やって。
学校に行って、今年も同じクラスになったゆめちゃんに、聞いてみる。
「あのさ、赤ちゃんって、道ばたにおちてるもん?」
ゆめちゃんが、目を大きくさせて言う。
「何言うてるん。赤ちゃんは、お母さんから生まれてくるんやで。」
「でも、今日、道ばたで、赤ちゃんがダンボールに入ってたん。」
ぼくの顔を見て、ゆめちゃんがむずかしい顔をして言う。
「ゆうたくんがウソつくなんてことはあらへんし、ほんまなんよね。ってことは、その赤ちゃん、お母さんにすてられてしもうたんやね…。かわいそう…。」
すてる…子どもをすてる…?
「子どもは、ごみとちゃうのに、すてられることがあるん?」
「そういう子もいるって、本で読んだことあるよ。」
「何でやろうね。」
「何でやろうね。」
ぼくとゆめちゃんは、二人で首をかしげて考えた。けれど、答えはわからなかった。
家に帰って、お母さんに赤ちゃんのことを聞いてみた。今は病院にいるらしい。それで、これからはお父さんやお母さんになってくれる人をさがすんやって。
次に、ぼくとゆめちゃんのギモンを、聞いてみた。ぼくたちにはわからへんことも、お母さんは知っている。
「赤ちゃんのお母さん、何で赤ちゃんをすてていかはったんやろうね。」
お母さんは顔をかたくしている。あんまり見ない顔だ。何となく、わるいことをしてしまったような気になる。どうしたん、お母さん…。
お母さんは、その日から、かたい顔をすることがどんどんふえていった。ぼくが学校から帰って、お母さんが帰って来るのを待っていると、いつものお母さんなら、
「ただいまー。ゆうた、今日は学校どうやった?」
って、目を細くしながら聞いてくれる。でも、さいきんのお母さんは、赤ちゃんの話ばかりする。でも、楽しそうだったり、うれしそうだったり、というわけではなさそう。かたい顔ばかりしている。
「赤ちゃん、日に日に大きくなってきてるんよ。今日はかんごしさんに抱っこでミルクもろうてはったわ。それで、お母さんよこにいてんけど、お母さんが顔見せたとたんになき出して…。」
「お母さん…。」
何となく、お母さんがとおくにいるような気がして、さびしくなって声をかける。すると、お母さんは“にっこり”わらって、
「ゆうたは、何もしんぱいせんでええしな。」
と言う。お母さん、ぼく、知ってるよ。お母さんのその顔、ぼくにはわからへんように、考えごとをしているときの顔やって。




