魔術師マイアの困惑
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あとで聞いた話である。
北門で金獅子騎士団三名と双剣騎士団七名の争いが発生していた。
双剣騎士団の中には、双剣騎士団の五席であるマイアがいた。
極秘裏に結成された「封印のダンジョン攻略用パーティ」に遠隔攻撃役の魔術師として参加していた女性騎士だ。小柄だが魔術の能力も含めて高い攻撃力を持つ。
そのマイアは困惑していた。
そもそもこんな足止めを想定していなかったためだった。人知れずアルカサールに入り封印のダンジョンを確認することがこの七名の目的だった。
魔王の復活。
その兆候の確認。
当初、マイアは拒否したかった。封印のダンジョンで死にかけたことはそれほどの恐怖を刻んでいた。戦場での名誉ある死ではなく、獣にエサとして食われ死ぬことは想像しただけで背筋が凍った。
だが結局団長であるヒルダに説得された。封印のダンジョンの中の異変は魔術師として魔力の流れを観測する必要がありその適性がマイアにあり、加えて封印のダンジョンに一度挑戦した経験も役に立つだろうという判断だった。
騎士であれば、命令があればそれがどんなに危険なものであっても命と名誉を賭けて実行する。それが騎士だ。
だからマイアはここにいる。
にもかかわらず、アルカサールへ入る前に躓いた。
アルカサールの常備騎士団である金獅子騎士団が戒厳令を盾に拒否してきたのだ。
そんなことは今までなく、加えて騎士団としての序列が双剣騎士団の方が上であることが問題を大きくした。王翼四騎士団と呼ばれる四つの騎士団が騎士団の中で上位とされており、双剣騎士団はその四騎士団の一員だが、金獅子騎士団は入っていない。当然、双剣騎士団側では金獅子騎士団を「格下」と認識しており、入市を拒否する金獅子騎士団に対し、格下の戯れ言として扱ったのだ。
金獅子騎士団の雰囲気が変わったのがマイアにもわかった。
金獅子騎士団の怒気に呼応するように双剣騎士団の気配も変わった。
武器こそ抜いてないが準戦闘態勢だった。
お互いにここで引くわけにもいかないこともわかった。
面子の問題だ。双剣騎士団であるということが、相手に知られている段階で、格下に対して引くことは出来なかった。それは、このあとありとあらゆる場所で嘗められることを意味する。士気が極めて重要な戦闘集団としては致命的だ。
戦闘はなるべく避けたかったが、それでもマイアも念のためこっそりと魔術発動の準備を進めた。
マイアが契約している風精霊たる無限のアーエールとのリンクを確認し、奇跡の通り道を作る。通常であればそこに自分の魔力を込めて「魔術発砲直前」にまで持ってくるのが戦闘準備であるが、そこまでやると精霊圧を発することになり、それを切っ掛けに実際に戦闘が始まりかねないのでそこまでは進めずに止めておく。
戦闘にならないに越したことはなかったが、戦闘集団である以上戦闘になる可能性もあった。若手の騎士は訓練の繰り返しで戦闘に飢えていると言ってもいい。
(どうしよう……)
準備が終わったところで、マイアは今回の双剣騎士団側では一番階級が高くリーダーであるギルバスの表情を確認した。その表情は険しく、マイア同様戦闘を回避しようとしているのがわかって少しホッとした。ライザとしてはさすがに同じ王国の騎士団同士が争うのは避けたかったし、ギルバスも同じ考えだと思ったからだ。
「ギルバス殿」
押し殺した声で声を掛けると、
「わかっている。だが今はまずい」
「はい」
双剣騎士団を代表として金獅子騎士団とやりとりしているのは若手の騎士であるミゼルだった。
ミゼルは猛々しい表情で、告げた。
「守護騎士団とはいえ、ここは王国の一都市に過ぎぬ。我々の入市を止める権利はないはずだ」
相手になっている金獅子騎士団はやはり若手であったが、やはりイライラした表情で、
「今は戒厳令が敷かれている。入ることはならぬ」
「だから止める権利はない、と言っているのだ」
「こちらも同じことを繰り返している! 入ることはならん!」
「話にならん!」
ミゼルが荒い声を上げ、そのことに金獅子騎士団側の騎士が怯んだことがわかった。
マイアが気づいたことにミゼルも気づいたのだろう。
勝機だと考えたに違いない。
ミゼルは「押し通る」と言って前に歩き出した。
金獅子騎士団が勢いに押されたように一歩下がると、さらに前に出る。
ミゼルの強引さのおかげでこのまま突破できるかと思われたとき、金獅子騎士団側に動きがあった。
十名以上の騎士が駆けつけてきたのだった。人数が逆転し、さらにそのうち三人ほどは油断ならない気配の持ち主でその三人だけ黒い籠手を身につけていた。
態度が大きいことから立場が上なのだろうと推測し、彼らが理性的な人間であることを期待したが、その期待は一瞬で消えてなくなった。
「まずいわね……」
マイアの呟きを証明するように黒い籠手を付けた騎士達は事情を聞くといきなり剣を抜いた。
ギョッとしたようにミゼルも剣を抜く。だが遅かった。黒い手甲を付けた騎士の剣は当たり前の様に振り下ろされ、ミゼルの右半身と左半身を左肩から右脇腹にかけて両断した。
白っぽい脂肪と桃色の筋肉が一瞬覗いた後、大量の血しぶきで見えなくなった。
抜いたばかりのミゼルの剣が落ちた。その剣を追うように上半身も落ちた。
「抜剣!! 各自個別対応!」
ギルバスが焦った声で叫んだ。
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