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就職試験じゃなかった


     @


 耐久訓練だと思っていたそれは思ったよりも長かった。


 それを俺は頑張って耐えた。


 だがそれが終わったとき、狭い部屋の中に鉄鞭や長大なペンチ、焼きごて、長い針などを持った十人の金獅子騎士団の騎士がいて、なぜかほとんど全員が俺を恐怖の目で見ていた。


 一方、俺は絶望の目で彼らを見回した。


「そ、それでは……それではこれは本当に仕事を得る前の試験ではかったのか……」

「だから違うと言っているーー」


 俺は絶叫した。


「ふざけるな!!」


 金獅子騎士団の騎士達が怯んだ。


 だが俺が|手枷足枷を着けている状態・・・・・・・・・・・・であることを思い出したのか、逃げ出しはしなかった。


 試験でないのだったらこんなものは着けなかった。


 剥がされかけた爪がひどく痛んだ。


 金獅子騎士団の中で一番年かさの男ーー確かファルサと呼ばれていた男が仲間を見回した。独特の強者の気配がある四十代の男だった。他が金色の獅子の意匠が入った籠手を着けている中、やけに地味な黒い手甲を着けていた。同じような黒い手甲を着けているのはあと二人。全員が強者の趣がある。もしかしたら強者の証なのかもしれない。


 そのファルサが


「おい、ミカル、お前、騙して連れてきたのか?」

「い、いや……普通に連行しただけです……」

「そのような示唆はしなかったのだな? ダッキーも同じ認識か?」

「あ、ああ……脅しはしたが、騙してはいません」

「と、言っているぞ?」


 俺は怒りと共に今朝からの一連の流れを回想した。


 …………確かに言ってはいなかった。


 となると誤解のようだった。


「そうか。不幸な誤解だったか。だがだとしたら俺はもうここに用はないな」


 俺は腕をひねった。


 手枷が腕の筋肉に食い込んだ。


 人精霊と同期すれば一瞬で筋肉は膨れあがり、次の瞬間手枷は弾けて飛んだ。


「!!!!?」


 金獅子騎士団の騎士達は驚愕の表情で固まっていた。


 俺はそのまま足枷も引きちぎった。


「邪魔をしたな。帰らせてもらうぞ。くそっ、無駄に血を流した……」

「待て! 逃がすわけにはいかん!」

「む?」


 必死な声で叫んだのはミカルだった。


 それをファルサが押しとどめ、


「お前では相手にならん」

「し、しかし……」

「お前は確かレベル22だったな? こいつは俺の見たところレベルが30以上だ」

「!」

「驚く気持ちはわかるぞ。俺も驚いている」

「し、しかし、こんな年齢でそのレベルは……」

「だから俺がやる。お前たちはそこで見ていろ」


 ファルサが腰に佩いた剣を抜いた。


 それを見て、黒い手甲を着けた二人は厳しい顔で、残りの騎士達はホッとしたように一歩下がった。


 ファルサが低い声で言った。


「改めて伝えるが、お前は魔犬団と強盗の計画を立てた疑いで逮捕された。アルカサールの平和のため俺たちは捕まえた獲物は絶対逃がさん。だから抵抗は無駄だ。素直に自白しろ」

「自白も何も俺はその魔犬団とやらは知らないのだ」

「黙れ。自白をしない限り、ここから出さん。ここから出れるのは罪を裁かれ死体となった者だけだ」


 俺はため息をつき顔を上げた。


 俺に向けられていた剣先はわずかにもぶれなかった。


 改めて、強い、と思った。


 俺はふと違和感を感じて、目を細めて剣を向けてくるファルサを見た。ファルサの背後に精霊の気配があったのだが、それが俺の知らない精霊の気配だったためだ。間違いなかった。知っている精霊に交じって、知らない精霊がいた。


 それはつまり相手の使う魔術が分からない事を意味した。


「……ふむ」


 ファルサの傍らで何かに気づいた別の騎士が、うろたえた。

 

「なんだ? 気を散らすな」

「いや、その……」

「言いたいことがあったらさっさと言え」

「魔犬団を一人で無力化したのがおかしいと言うことで彼を拘束したのですが、こ、この腕力であればあり得ない話ではないかも知れません、とーー」


 ファルサが少し驚きの表情になった。


「そうか。なるほど。確かにそうだな」

「はい。ど、どうしましょう?」

「ふむ。ジーケンの言いたいことは分かった。だが、そうであれば一層こいつをここから出すわけにはいかんな。金獅子騎士団は完全でなければならん。アルカサールのためにそうでなければならんのだ」

「……はい」

「すまんが金獅子騎士団のため、アルカサールのためにここで死んでもらう」


 剣先が上げられ殺気がこもった。


 俺はファルサをまっすぐ見た。


 やるしかなかった。


 俺はゆっくりと構えた。


「戦おう。お前は俺の敵らしい」

「いや、敵では無い。ただお前の命を奪うだけだ。騎士とはその権利を認められたものだからな」

「俺の命を奪う? そんなことは不可能だ。だが、既に言葉は意味がない。それを示そう」


 俺は足枷をむしり取り、それを武器代わりに両手に持った。


 同時にファルサが動いた。ファルサが放つ殺気が粘度を感じるほどの密度で膨れあがる。これだけで気が弱い人間なら意識を失ってしまうだろう。


 騎士の中でも戦術級と呼ばれる強者がいる、と父上から聞いていた。レベルで言えば40以上。千人と戦える実力を認められた者達だ。


 ファルサは戦術級と思われた。


 戦術級の攻撃は、人間では受け止めることが出来ない。同じく戦術級であれば対抗できるが、数百アザール(キロ)の鉄塊を吹き飛ばすパワーを持つ戦術級は、本来戦場で多数を相手にしてこそ価値がある。


 だがそれを個人に向けても充分に意味があった。


 魔力が籠もった剣が凄まじい勢いで空を切って俺の左の首筋を狙った。驚くほどの速度だった。


 当たれば、金属の鎧を身につけていたとしても、金属板ごとちぎれ飛ぶことになるだろう。


 加えて魔力が籠もった剣相手では、こちらが魔力を込めて受け止めても肉体と剣の強度の差で、肉体が負けてしまう。だから俺は首を捻って避けた。魔力が籠もった剣は、空気を甲高い音で引き裂きながら俺のすぐ横を手にした足枷の一部をバターのように斬り裂いて。通り過ぎた。


 通り過ぎたあとに衝撃波が俺を襲う。


 さらに通り過ぎた剣が一回転した。


 再び俺に向かってくる。


 それを必死に躱しながら俺は感嘆していた。


 そもそも戦いにおいて魔力を最初からフルで使うことはイレギュラーだと言えた。そんなことが行われるのはおそらく騎士同士が行う『闘技会』での決闘くらいだろう。理由は簡単で、魔力をそのまま使っていると、あっという間に魔力切れを起こしてしまうからだ。だから通常は精霊と契約し、精霊を通して効率よく(・・・・)魔力を使う。一方、『闘技会』は一戦一戦の間に長いインターバルがあるため、最初から躊躇なく魔力を使えるのだ。


 戦術級の、魔力が籠もった攻撃を俺はギリギリで躱していたがこのままではいつか避けきれずに受けることになるのが目に見えていた。


 対抗するには魔力を籠めた武器が必要だった。魔力に馴染んだ武器ならば、そう簡単に破壊されなくなる。


 俺はファルサの追撃が来る直前に他の騎士たちの間に飛び込んだ。


 予想外の動きであったはずだが、騎士たちはちゃんと対応し、それぞれ防御態勢を取った。俺は全速でその間をすり抜け、さらにその隙に、腰の短剣を一本奪った。


 騎士達とは逆の隅に立ち、短剣を構える。


 握るとわかるが、悪くない出来の短剣だった。


 そのまま短剣に魔力を込めた。魔力がするりと馴染んだ。


 ちょうどファルサの攻撃が来たので、それを短剣で受け止めた。金属と金属がぶつかったとは思えない耳を切り裂くような甲高い高音が響いた。魔力同士が反発したのだ。


 ファルサは大きく飛び下がった。


 そのままファルサは武器を手にした俺を前に追撃を諦めたのか、剣をだらんとぶら下げて立っていた。


 相変わらず剣に魔力を垂れ流しているのは剣から異音が発し続けていることから明白だった。漏れ出た魔力が空気と反応しているのだ。


 俺の方は魔力を止めながら感嘆していた。


 信じられなかった。余りにも無駄な行為だった。


 とてつもない魔力量の持ち主か、あるいはなにか秘密があるのか(・・・・・・・・・・)


 ファルサは剣を下げたまま、隣の騎士に向かって顎で、


「お前、攻撃しろ。その隙に俺がやる」


 指示された騎士は一瞬ビクッとしたが、すぐに形相を変えて剣を握りしめて俺をにらみ付けた。


 覚悟を決めた目だった。


 今は魔力が込められていないが、騎士である以上いつ魔力が込められてもおかしくない剣を向けられれば対応する必要がある。同時にファルサに攻められれば、さすがに躱すのは困難だった。


 俺は魔力を込めた短剣を前に突き出しながら、打開策を模索し、それから全身に魔力を通して、そのまま後ろ向きに壁の方に向かって飛んだ。

読んでいただいてありがとうございます。気に入っていただければブックマークをぜひお願いします。

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