就職試験
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俺はいつものように仕事場に向かうため暁の虹を出たところで、金獅子騎士団と名乗る二人組に話しかけられ、そのままその二人に連れられて西側にある石造りの建物に向かった。
聞きたいことがあるのだという。
「金獅子騎士団」という言葉には聞き覚えがあった。
確かピサール親方のところに良く分からない仕事をしに来た奴らだったはずだ。
俺はすでに仕事を得た身であるが、別の仕事に興味がないわけではなかった。しかもその仕事は行って金をもらうだけという夢のような仕事であり、俺が興味を示したことを知っているはずで、つまりそれを紹介してくれるつもりなのかも知れないのである。俺自身は未だ真の戦士には至らぬ身であるが、金獅子騎士団の前で一定の強さは示していた。その時は騎士達は合否を言わずにいなくなってしまったので不合格だったのかと思っていたのだが、どうやらそうではなかったようだ。一次試験が通って、次は別の何かを調べられるのだろう。そのための試験というならば行くべきだと思ったのである。仕事を得たことで俺の世界は拡がり、そして世界には様々な仕事があることを知った。その過程で、世界にはたまに「何もしてないのに金を得る仕事」が隠されていることも知った。その「仕事」の本質を知ることで俺はまた一つ成長でき、真の戦士に近づけるだろう。
西の詰め所はちょっとした要塞で、俺は「ほう」と感心した。
建物の外壁には縦長の弓狭間まで装備していた。第六層の魔族は極めて高度な社会を構築する者達で、ダンジョン内に同じような要塞を建築し、弓狭間から恐るべき魔術を連射してきたのは懐かしい思い出だった。
俺は騎士二人に挟まれて中に入った。
その際、武器を渡す必要があった。試験は無手で行われるようだった。確かに武器を失ったあとに戦えるかどうかは強さの重要な指標の一つであるのは間違いわけで、俺は感心した。もっとも俺は父上から無手の格闘術も鍛えられてはいる。従って素手でもマックスグリズリー程度であれば戦える。だが、久々の格闘戦だ。果たして今まで通りに動けるか。しかも相手がわからない。行くだけで金をもらえるという仕事の試験だ。強敵が予想された。ドラゴンならば苦戦は免れないだろう。
俺が緊張していると、
「怯えているのか?」
とあざ笑うように金獅子騎士団の一人ーー確かミカルと呼ばれていた男が言った。続いてダッキーと呼ばれていた男が、
「どのみち“墓場”に来たら五体満足で帰れると思うなよ?」
「わかっている。厳しい試験なのだな。だが俺は俺の出来ることをやるだけだ」
「試験? 何を言っている?」
「む?」
「お前はここで罪を自白し、併設された牢獄で罪を償うのだ。入れ」
廊下の途中に大きく分厚い木製の扉が開いたままになっていて、その部屋の中に俺が入ると二人の騎士も入り、そして騎士の背後で扉は閉められた。
俺はぐるりと周囲を見回した。木の部分は扉だけで、壁は石造りで、高い場所に小さな採光用の穴が空いていた。
狭かった。
暁の虹で寝泊まりしている部屋の三分の一もないだろう。代わりに天井はやけに高く三ガルデ(メートル)ほどはあった。
部屋の中には木で作られたテーブルがひとつとやはり木で作られた椅子が二脚。壁際に水桶が一つ、あと木の棒が一本壁に立てかけられていた。俺は黙ってダッキーが顎で示した奥の椅子に座った。木が剥き出しの硬い座面が尻に当たった。
俺の対面にダッキーが座り、ミカルは腕組みをしたまま俺の横の壁を背に立った。
「なんで呼ばれたかわかっているな?」
俺は頷き、咳払いをして、背筋を伸ばし、ミカルをまっすぐ見て、それからライザ相手に何度も練習した文言を言った。
「はじめまして。アーシュと申します。常に新しいことへ挑戦し続ける御社の姿勢に強い魅力を感じ志望いたしました。今日はどうかよろしくお願いいたします」
噛まずに言えた。俺は胸を張った。
ミカルとダッキーのギョッとしたように顔を見合わせた。
俺の完璧な志望動機に畏れを抱いたのかも知れなかった。
俺は続けた。
「体力と戦闘力に自信があります。父うーー父から教わった戦闘術がきっと御社の軍事行動に貢献すると考えています。加えてーー」
「ま、待て!」
気持ちよくなっていたところを止められて俺はイラッとしてミカルを見た。
「途中で止められると続きが言えなくなってしまうではないか」
「い、いや、違う」
「む? 何か間違えたか?」
「そういうことではない。お前は今なにをしている? なんのつもりだ?」
「だから試験を受けている……む? その質問にどう答えるかも試験のうちか?」
「試験ではない! お前は強盗の容疑で取り調べを受けているのだ!」
俺は驚いた。
「強盗? なんのことだ?」
「しらばっくれるな!」
「全然わからん。父上から盗みなど真の戦士がやるべきことではない、と言われている。どうせ盗むなら国を丸ごと盗め、と。俺はまだ国を盗んでないぞ?」
「お前は強盗に堕した魔犬団と組んで、アリュール商会に入り込む画策をしたことはわかっている。全てばれてる。諦めてさっさと自白しろ!」
俺は首をかしげた。
「いや、そうはいってもな。やってないことはやってないとしか言えんぞ?」
ダッキーが苛立った表情で立ち上がり壁に立てかけてあった棒を手に取っていきなりそれを俺に向けて振り下ろした。
訳が分からなかった俺はそれを手のひらで受け止めた。
「貴様! 抵抗するか!!」
ダッキーが叫び、激高しながらもう一度振り上げ俺に向かって何度も棒を振り下ろす。困った俺がのろまなそれを当たり前の様に右手一本で受け止め続けていると、
「避けるな!!」
といわれたので、右手で受け止めるのをやめ、敢えて身体で受けるようにした。避けなければいいわけで、微妙に芯をずらし筋肉を締めれば、ダッキー程度が振るう打撃はほとんどダメージ無しで受け止めることが出来る。
俺はホッとした。
やはり試験は続いているようだった。おそらく攻撃に対する忍耐力と防御力を試されているのだろう。
繰り返される衝撃が懐かしかった。
父上にも似たような訓練を受けさせられた。
武器の間合いを把握し相手の攻撃を身体で受ける訓練だった。武器で受けることを失敗したときの対応として、覚えさせられた。
気がつくと打撃はずいぶんと弱っていた。
俺が顔を上げると、ダッキーの顔は汗まみれで肩で息をしていた。肩で息をしながら必死に木の棒を持ち上げ、よろよろと俺の肩を打った。
「大丈夫か?」
心配になって声を掛けると、
「う、うるさい……」
と言って、ダッキーはついに棒を振るのをやめた。その棒を杖のように寄りかかり、必死に息を整えはじめた。
それをミカルは驚愕の表情で見て、
「な、なにがどうなってる?」
「わ、わからん……今までこんなことはなかった。まるで……そうだな、柔らかい布を叩いているような感触だった……」
二人は顔を見合わせて、それから俺の方を見た。表情が変わっていた。
「……貴様、ただのガキではないな?」
「そうだな。そうありたいと思い努力している。だが真の戦士にはまだ足りないのだ」
「煙に巻こうとしてもそうはいかん。これほどの腕……おそらくユーファイ王国の間者だろう」
「?」
首をかしげた俺を無視して、ダッキーとミカルは勝手に話を進めた。
「おそらく年齢も見た目通りではないな。何らかの魔術で詐称していると思われる」
「なるほど。確かに……その可能性は高い」
「騎士団の全力をもって必ず口を割らせねばなるまい」
真剣な顔で訳の分からないことを言い始めた。
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