突入
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あとで聞いた話である。
ピサール親方の新しい鍛冶場での話し合いの半刻後、ベルケスとマルキアは墓場こと金獅子騎士団西詰め所にいた。
「いや、まぁ、話を聞いてみると間違いなく関係者みたいだし、つまりこれは利益供与ではなく、あくまで関係者への対応ってことで。聞かれたらちゃんとそういうことにしてね?」
「もちろんです。マルキッソスさんに迷惑はかけません」
「いや、そりゃそうだよ。当たり前だよ。でも既にちょっと迷惑なんだよ。正直なところ」
「それはまことに申し訳ありません」
「ただまぁ、いつも世話になっているからなぁ……って、ここだ」
石造りのちょっとした城のような金獅子騎士団西詰め所を案内していた騎士マルキッソスは木の扉の前で足を止めた。続いていたマルキアとベルケスも足を止める。
そこへ別の騎士が三人に気づいて近づいてきた。
「マルキッソス殿、こちらは?」
「俺の客だ。気にすんな。行け」
ひらひら手を振って追い払った。その態度はずいぶんと雑だったが、言われた騎士は不満を見せずにただ頭を下げて立ち去った。
それを見てベルケスは、アリュール商会と付き合いがあるというマルキッソスは金獅子騎士団の中でそれなりの立場の騎士らしい、と思った。
マルキッソスは見栄えの良い騎士ではなく、小柄で胴体に比べて頭が大きく足は短いという一目見たら忘れられない体型であるが、目の色が強かった。
この見た目であるが、ベルケスの勘によるとマルキッソスは強かった。精霊の気配があるからおそらく精霊と契約し魔術を使用する魔法剣士であろう。潜行者で言えばA級か、あるいはS級か。いずれにせよベルケスといえど簡単に倒せる相手ではないと思われた。
マルキアによるとマルキッソスは、罠や構築した情報網を駆使して複数の強盗団を捕縛した切れ者の騎士、らしい。
彼の実力を感じて、思ったよりも騎士というものは手強い、とベルケスは考えた。
いざという時には大暴れするつもりだったが簡単ではないようだった。黄金騎士サルーンに加えて、このレベルの騎士が金獅子騎士団に何人いるか、が重要だった。五名以上いるとなるとS級の潜行者パーティであっても対抗は難しい。S級の潜行者パーティにアタッカーは一人か二人であり、一斉に攻撃を受ければ、後衛は耐えきれないだろう。そうすればパーティはアタッカーとタンク以外やられ、一人で複数相手にする必要が出てきて、それはつまるところ敗北だった。
ベルケスは無策のまま金獅子騎士団に突撃しなかった幸運を噛みしめた。
マルキッソスは木の扉の前で大げさに押しとどめるように手を上げ、
「ここは入れないぞ? 入れないからな? その前提で、アーシュ?とやらはこの部屋の中で取調中だということだ。ここに案内したのが俺がお前たちに供与できる利益の上限だ」
「取り調べ、ですか?」
「ああ。街道でアリュール商会を狙った強盗団? がいたな?」
「はい」
「その仲間だと疑われている」
「……は? ど、どういうことですか? そもそもその強盗団を捉えたのがアーシュさんだったのですが」
「らしいな」
「? それがわかっているならーー」
「捕まったのはA級潜行者パーティだ。まぁ、強盗団に転職したわけだから元、というべきかも知れんが。そいつがたったひとりのガキに捕まる……ってのはさすがにおかしい、と思わないか?」
「ど、どういう意味、ですか?」
「もとから仲間じゃなかったのか、って、なにか意図があってそういう演技をしていたのか、って疑われてんだよ」
ベルケスは思わず激高し、
「そんなわけがあるか!」
詰め寄ろうとしたところ、マルキッソスは皮肉な笑みを浮かべた。
「お? いいんだぜ? ここでいきなり暴れ出したお前たちをぶっ殺したところで、咎めがあるわけがねぇ。俺とアリュール商会の関係を誰も説明出来ねぇし、ややこしい後腐れもなくなる。俺は金主を一人失うが、まぁ、すぐに見つかるさ。なんせ俺は有能だからな」
ベルケスは思わず腰の武器を探したが、建物に入る際に預けてしまっていた。ライザの哀しそうな顔を幻視したベルケスが歯ぎしりをした直後、轟音が発生し、ベルケスは動きを止めた。マルキッソスも弾かれるように轟音が聞こえてきた方に身体を向けた。
轟音は、アーシュが取り調べを受けているという部屋から聞こえてきた。
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