相談
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あとで聞いた話である。
ベルケスはアーシュを拘束した人間がアルカサールの治安維持を任務とする金獅子騎士団であることを再度紋章などについてライザに質問して確認し、確信を得たあと、この情報をまずアーシュの親方であるピサールに、次いでアリュール商会のマルキアに伝えた。
それから三人は善後策を講じるために、今建設中の新しい鍛冶場に集まった。
窯を七つ用意したという鍛冶場はベルケスから見てもかなり大規模で、今も工房建設専門の職人達が足繁く出入りしていた。
その奥の作りかけの部屋に、ピサールとマルキアが既に待っていた。二人とも極めて難しい顔をしていた。
「遅れたか」
「いえ、連絡、ありがとうございます」
マルキアが礼を言い、続いてピサールが頭を下げた。
「……最初に俺が謝らないといかんな。すまん」
「ん?」
「金獅子騎士団がアーシュに手を出したのはうちで起こった騒動のせいだろう」
「A級のバガンが暴れたという奴か?」
「ああ。あれはアーシュには関係ないことだったからな」
「いや、どうせアーシュが勝手に手を出したんだろ?」
「それはそうだが、だが面倒そのものはうちにしか関係ないからな」
「お節介なのがあいつのいいところだからな」
「言われてみれば、アーシュさんのお節介がなければ、私はアーシュさんと知り合うことはなかったでしょう」
「俺もそうだ」
「俺は違うぞ? 仕事の師匠弟子だ! お前らと違ってアーシュとは双方向の関係だ」
ピサールがなぜかえらそうに胸を張った。
それを呆れた顔でベルケスは眺め、
「それどころじゃない。なんとかせねばならんのだ」
「……そうだった。すまん」
「俺は金獅子騎士団に伝手はない。ぶっちゃけるが、金獅子騎士団に影響力があるお偉いさんで俺が働きかけられそうなのは潜行者ギルドのギルド長くらいのもんだ。しかもたぶん大したことはできん。潜行者ギルドと金獅子騎士団は仲が良くないからな」
「俺はただの鍛冶屋の親父だからな。なんの伝手もない」
「うちは商家なので色々とルートはあります。そこを通じて今確認を取っているところですが……そもそも金獅子騎士団は閉鎖的で、しかもずいぶん悪い噂が多いのが心配です……」
「男爵に直接話が出来れば一番早いのだが……」
「ここだけの話ですが、アルカサール男爵はかなりのくせ者です」
「そうらしいな……くそっ、最悪、俺が乗り込んでーー」
「それは無理でしょう」
マルキアがあっさりと言い、ピサールが目を剥いた。
「ベルケスはこう見えてもとS級だぞ!?」
「もちろんほとんどの騎士と一対一であればベルケスさんが勝利する可能性は高いでしょう。しかし騎士団の戦術はまったく異なります。各都市の治安維持を担っていますが、実際には騎士団の目的は集団戦であり戦争です。そのために訓練を受けています。対集団用魔術と石弩の組み合わせに対抗するのはやはり同様の集団戦に慣れたものしか出来ないでしょう。相手のホームでの迎撃戦で、対人戦に慣れてないベルケスさんが勝利できるとは思えません。しかも金獅子騎士団にはサルーンという最強の騎士がいます」
ベルケスは顔をしかめて歯をギリッと鳴らした。
「サルーン……黄金騎士、か」
「はい。王国で強さに於いて双璧と言われている騎士の一人です。技の鋭さ、美しさでは剣聖が上と言いますが、その破壊力は黄金騎士の方が上だとさえ言われています。加えて金獅子騎士団には新型の魔術を秘密裏に開発しているという噂もあります」
「新型の魔術だぁ? 精霊魔術以外はダンジョンから出るスクロールがなければ無理だろうが」
「そのはず、なのですがーー伝説でも黒騎士ゼペンが魔との取引によってこれまでにない魔術を発動したという話がありますし……」
「それでもアーシュをそのままにしておけない。アーシュは……そうだ! うちの客だしな。当然助ける。ライザとか関係ないぞ。婿候補とか考えてないからな?」
「ともかく、そのために情報を待ちましょう」
ちょうどそこへアリュール商会のミレーが現れた。
ベルケスとピサールに頭を下げたあとマルキアのもとに歩み寄ったミレーはマルキアの耳元でなにか報告した。マルキアの表情が変わった。
マルキアはミレーに礼を言いそれからベルケスとピサールの方を向いた。
「……アーシュさんが連れて行かれた先がわかりました。金獅子騎士団西詰め所ーー通称、墓場、です」
「まずい。あそこは殺人に関わるような凶悪犯用の拷問室があるところだぞ?」
「はい。幸い、懇意にさせていただいている金獅子騎士団の騎士の方に会う約束を取り付けることができました。すぐに行く予定ですが、ご一緒しますか?」
「もちろんだ」
ベルケスは勢いよく頷き、一方ピサールは力なく首を振って、
「……俺はやめておこう」
「ん?」
「残念だが俺には騎士様の相手はできん。お前らと違って、俺はただの職人だ」
「それを言ったら俺だってただの宿の親父だ」
「ベルケスはちょっと前までS級の潜行者だったろうが。マルキアさんも貴族相手に商売しているからああいう偉いさんになれているかもしれないが、俺には無理だ。俺の親父も鍛冶屋だったんだが酒場で騎士団の連中に絡まれて半殺しにされて右腕が効かなくなってちまってそのまま引退した。俺はガキの時分にそれを見ちまったからどうしてもビビっちまう。俺がいたら邪魔になる。二人で行ってくれ。そして……アーシュのことを頼む」
ピサールは頭を下げ、ベルケスとマルキアは頷いた。
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