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適性検査


         @


「料理ってやったことがある?」

「ああ。もちろんだとも。戦場では自分で食事を準備する必要があるからな」

「じゃあ、作ってみて。……父さん、ちょっと食材使っていいよね?」

「おう。かまわんぞ。だが、肉はここからここまでで頼む」

「ふむ……既に切り分けられた肉か。だが前段がなくなっただけだな。問題ない」


 俺は料理をはじめた。


 といっても、固まりに塩を揉み込み、薄く切って焼くだけである。包丁と呼ばれる料理専用のナイフを使うのは初めてだったが、問題はなかった。


 肉が大きければ時間がかかるのだろうが、切り分けられている肉はすぐに火が通った。


 五分と経たず、俺は見事に焼けた肉片を差し出した。


「出来たぞ」


 周囲は黒々ときっちり焦げている。父上に言われたとおり、これで中まで毒素は抜けているはずだ。


 だが、ライザとベルケスは顔を見合わせた。


「どうした? ……まだ毒を気にしているのか」


 俺は一片を口に入れた。


「うむ。毒は問題ない。新鮮ではないが、柔らかいな。ふむ。ボア系の魔獣の肉とみたがどうだ?」


 恐る恐るといった感じでベルケスが肉の一片を取り上げ、しげしげと見た後、口に入れた。

 ゆっくりと咀嚼する。ジャリジャリと音が響いた。


「……まぁ肉だな。かろうじて食えなくもない。焦げも思ったよりは少ない」

「でも料理じゃないわよ」

「そうだな。これは料理じゃない」


 ライザの言葉にベルケスは頷いた。


 俺は訳が分からなかった。


「む? 料理とはこうではないのか?」

「こんな焦げた肉、誰が食べるのよ! 美味しくないでしょ!」


 俺は衝撃を受けた。


「いや、だがな……戦士というのはーー」


 俺の言葉は途中で遮られた。


「次やるよ。掃除をやってみて、上の階の二号室。時間も重要だから大急ぎで」

「わ、わかった」


 掃除、洗濯、配膳、風呂炊き、さらに金勘定まで俺はライザの指示通りに行い、結果、


「ビックリするくらい全然ダメなんだけど……」


 と不合格の烙印を押された。


「すまん」


 俺は頭を深々と下げた。いたたまれないほど恥ずかしかった。


 ベルケスが慰めるように、


「初心者相手に厳しすぎるんじゃないか。しばらくやってれば慣れるだろ」

「人の見極めは私の役目ってことになったでしょ!? 父さんはすぐに情に流されるから」

「いや、まぁそうだけど、こいつはいい奴だぞ? わかってるだろ?」

「それは私もそう思うけど、……なんというか、すごく雑なのと訳が分からないくらい丁寧なのが混ざっていて、本人の性格もあるんだろうけど、うまくいくイメージがわかない。料理と洗濯は本当に雑で、逆に掃除は無駄に時間掛けて二号室はピカピカよ?」

「きれい好きなのか?」

「洗濯は適当なのに? 無駄に力があるから布が傷んじゃったんだよ?」

「ふむ」


 ベルケスは俺の方を一目見て、考え、それから奥から首を落とされただけのボア型の獣の身体を運んできた。


「こいつを捌いてみてくれないか?」

「え? ちょっとちょっと。これ食べられなくなったら大損害よ?」

「いいからやらせてみる」

「わかった……どう捌けばいい?」

「まずは骨と脂肪と肉を分けてくれればいい」


 俺は言われるまま、捌いていく。


「あら……意外と器用ね」

「そうだと思ったんだ。なるほど。ちょっとわかってきたぞ」

「わかってきたって何が?」


 俺は脂で切れなくなってきた包丁をまな板の横に置き、


「自分のナイフを使っていいか?」


 とベルケスに訊ねた。


「おう。いいぞ」

「助かる」


 俺は腰につけていたナイフを取り出した。俺が打ったものだった。


 俺は慣れた手つきで肉を捌き続けた。


 骨と脂肪、さらに四つの肉の部位に分割された小山を前に、


「できた……と思っているのだろうがどうだ?」

「うん。完璧だ」

「よかった……」

「ってか、そのナイフの切れ味がすごいな。ちょっと見せてくれ」

「かまわんぞ」


 俺が打ったナイフをベルケスはしげしげと見た。刃を指の腹で触り、


「すごい刃だな。こりゃ、刀鍛治が作ったものじゃないか? えらい無骨な作りだがどこで手に入れたんだ?」

「俺が打った」

「……は?」

「戦士はあらゆることを自分で行わなければならない。父上の言葉だ」

「これを、アーシュが打ったのか?」

「そうだ」


 ベルケスは驚いた顔で俺を見た。だが俺は何を驚かれているのかがわからなかった。


 ライザがベルケスの脇をつついた。


「父さん、さっき分かったって言ってたのなんだったの?」

「あ、ああ、アーシュはアーシュがいうとおり、戦士なんだ。戦うために必要なことはきっちりと出来るってことじゃないかと思ってな。刃物の扱いはうまいが食事も戦場では作る余裕なんてほとんどないから、塩をかけて焼くだけ。洗濯も手際よく最低限に。逆に掃除とか金勘定とかはアーシュの元々の性格のせいかすごくきっちりとやる、ってことかな、と……それにしてもすごい刃だな」

「そんなに?」

「刃だけならダンジョンで見つかるアイテムに匹敵する」


 ライザが目を見張った。


「おっと、悪くなる前に肉を下処理しておかないとな」


 そう言って俺が切り分けた肉の部分を巨大な鍋に詰め込み始めたベルケスに向かってライザが思い出したように言った。


「そういえば、ピサールさんが手伝いを探してなかったっけ?」


 ベルケスは動きを止めてライザを振り返った。それから俺の方を見た。


読んでいただいてありがとうございます。気に入っていただければブックマークをぜひお願いします。週一、二度の更新になります。

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