屋根の下
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あとで聞いた話である。
アーシュという怪力の若者は八割方準備が出来ている潜行者宿『暁の虹』を眺め回し、
「そうか。これが潜行者宿か。前見た時より住みやすそうになっているな」
ベルケスは満足げに頷いた。
「おう。潜行者は潜行が大変な分、普段はいい場所にいたいもんだ。飯も美味いぜ? よく食べてよく眠って、それから頑張ってダンジョンで金を稼ぐ。それが潜行者ってもんだ」
「金……か」
「稼げる奴は稼げるからな」
「金というのはこういうものか?」
少年はごそごそと腰からぶら下げた袋を探り、貨幣を三枚取り出した。
「忘れていた。出立前に父上の側近から役に立つかもと預かったものだが……」
深く考えずに受け取ったベルケスは驚いた。
古代のものと思われるひどく古い金貨だったからだ。ダンジョンからは金貨も回収できるが、この三枚は見たことがない種類のものだった。だが見た目だけでなく重さからも金貨であると推測は出来た。おそらく帝国時代のものだろう。
庶民が使うのは基本的に銀貨までであり、金貨は生活の中で見ることはない。種類によっても上下するが通常の金貨一枚で庶民ならば一家が慎ましやかに一年間暮らせるほどのものだった。
ベルケスは少し考え、
「おそらく金だろう。もちろん俺はアーシュから金を取ろうとは思ってないが、この金貨、使えるかどうかを確認しておいた方がいいと思う。鑑定に回していいか?」
「よくわからんが、頼む。それから金は払うぞ。潜行者宿というものは金を払うと父から聞いたからな」
少年のいい方はひどく鷹揚で、こんな姿だが育ちがいいのかもしれない、とベルケスは思った。顔立ちも整っていて、どこか気品があった。そもそも金貨を持ち、それに対して気にするようなそぶりを見せないのは、よほどのことだった。ベルケスであっても金貨を運ぶときは不安で周囲をきょろきょろ見回し続ける自信があった。
「荷物はあるか?」
「これだけだ」
「そうか。なら部屋に案内しよう。おい、ライザ!」
娘を呼んだ。
ライザは二階にいたらしく返事と共にすぐに降りてきた。現在十四歳。妻に似て美しい娘に育った。問題は性格でこちらも妻に似た。だが、その物怖じしない強気な性格は、商売には向いているだろう、とも思っていた。父親が言うのもなんだが、働き者だ。
「なに? 部屋の掃除をしていたんだけど」
「客だ。開業前だが、寝るくらいは出来るだろ。六号室にお通ししろ」
ベルケスはそう言って少年を振り返った。
少年は口を半開きで、目を丸く見張って、どこか呆然とした様子でライザを見ていた。
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