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マリアの恋 8

 三日後、ルイーゼとメルシアはマリアの家に来る事になった。

 ルイーゼに送った手紙には、メルシアの店でミシェルと会ったと書き、その時の事で話があると家に招待した。メルシアの事を匂わせれば、きっと断らないだろうというカララのアドバイスに従ったものだった。


 前回と同様に庭のテーブルでお茶の準備をした。

 先にメルシアがやって来た。


「今日はありがとうございます」


 メルシアはにっこり笑った。親しみが持てる柔らかな笑顔だ。


「ルイーゼ様に、メルシアさんの事を信じてもらう良い方法があるんです」

 

 マリアは、今日の計画について話し始めた。


「私の兄が隣国で手に入れた、本音が口に出るお茶と言うのがあります。それを飲んでルイーゼ様とお話ししてはと思うのです。その...ルイーゼ様との関係上、ルイーゼ様がメルシアさんの話を信じるのは難しいんじゃないかと考えたのです。もちろん、私も飲みます。出来ればルイーゼ様にも飲んでいただいて、本当に効果があると実感してもらえればと思います。どうですか?」


 もちろんそんなお茶などない。魔女の薬をほんの少しお茶に入れるのだ。これは、カララの考えた事だった。

 メルシアは話を聞き終わると、ちらりとカララの方を見た。

 マリアはドキッとした。まだお茶も飲んでいないのに、メルシアに心を読まれたのかと思った。


「分かりました。色々と気を使って頂きありがとうございます。その...少し不安はありますが、私の事をルイーゼ様に信じて頂けるのならやってみようと思います」


 メルシアが了承してくれたので、ほんの少しの魔女の薬を入れたお茶を、カララが準備する事になった。 


 しばらくしてルイーゼがやって来た。

 珍しく顔を引き()らせ緊張しているようだったが、メルシアの姿を認めて、険しい表情に変わった。


「なんなの?何を企んでいるの?」


 ルイーゼは腕組みをし、マリアとメルシアを(にら)みつけた。


「あの..今日は特別なお茶を用意しました」


 マリアは神妙な顔を作って話を始めた。


「兄が手に入れた貴重なお茶があります。これは、飲んだら本音が口に出るお茶だと言われているそうです。試しに飲みましたが毒性はありません。

 今日はメルシア様がルイーゼ様にお話があるようなのですが、嘘ではない証拠にこのお茶を飲んで話をしたらどうかと思うのです。お茶を飲んだらどうなるか試しに私が飲んでみます」


 カララがポットに入ったお茶をマリアのカップに注いだ。

 直接舐めると痺れる苦さだが、お茶に混ぜると苦味が薄くなることは昨日実験済みだった。

 

 マリアはお茶を口にした。


「そう強い効果はないと思います。ルイーゼ様もお茶を飲んでみれば、メルシア様の話した事が真実であると、お分かりになると思います」


 メルシアもお茶を口にしたが、ルイーゼは、お茶に手をつけなかった。


「話があるのなら、話してみて」


 ルイーゼが促したので、メルシアは話し始めた。


「ミシェル様には一年前の花祭りで会いました。たまたまお店に来られたのです。

 それからミシェル様は時々店に来るようになりました。

 私は突然現れた王子様のようなミシェル様に恋をしました。けれど、それは一ヶ月前にミシェル様に婚約者がいると知るまでです」


 メルシアは、そこで言葉を切った。


「婚約者がいると知ったら失望し、心が冷めてしまいました。だけど私も店をやっている身です。伯爵家の方々に恨まれでもしたら、もうこの国では商売をやって行けません。なので、あまりミシェル様に冷たく出来なかったのです。

 それにプライドの高いミシェル様の事ですから、私から離れたとなると逆恨みされそうで怖いのです。貴族の方は平民に容赦ないですから....。

 そこで、なんとか良い方法がないかとルイーゼ様に相談したかったのです(ちょうどマリア様に会えて良かった) あらっ、これが本音を話すお茶の効果ですか (すごいわ。心で呟いたつもりが口から出てしまうのね。これって高いのかしら) あら、私ったら、ごめんなさい」


 メルシアは、赤い顔をして(うつむ)いた。

 ルイーゼは、予想していた話と違ったのか、口を軽く開け魔の抜けた顔をしていた。


「ルイーゼ様?」


 マリアが声をかけると、ルイーゼは我に返ったようにはっとした。


「それって、あなたはもうミシェルの事は、あきらめたって事?」


「はい。(婚約者がいる事を隠していたのだから、信じられない) あらっごめんなさい」


「そう?だけどミシェルは、私と婚約解消したいと、うちに申し出ているのよ。先日もうちへ来たわ。怪我を理由に帰ってもらったけど」


「私はミシェル様とは結婚なんか出来ません。(私以外にも恋人がいたかもしれないし) あらっまた..ごめんなさい」


 ルイーゼは、明らかに戸惑っているようだった。

 目をあちこちに泳がせ何か考えているようだったが、ふと目の前のカップに取ってゴクリと一口飲んだ。無意識にお茶を飲んでしまったようだった。

 ルイーゼはメルシアの言った事を、逡巡しているようだったが、やがて口を開いた。


「あなたの言う事は分かったわ。あなたは今、ミシェルに言い寄られて困っているって事ね。(思っていた事と全然違う) うぐっ、あっ、私もお茶を飲んでしまったわ! (大丈夫かしら、変な事言ったら) ええー、ちょっと、これどうにかしてくれない?」


 ルイーゼが手で口を押さえているが、もうどうしようもない。


「多分、すぐ効果は切れます。でも、これで、メルシアさんが嘘を付いていない事が分かりますよね。(良かったわ。予定通り).信じて頂けて」


 メルシアが話を続けた。 


「ミシェル様は、容姿端麗で女性の扱いが上手く、一緒に出掛けて楽しく過ごすにはとても素晴らしい方です。だけど、ちょっとした時にプライドの高さが出て、私を下に見ているのが分かります。(平民だから仕方ないのだけど)ええっと、身分の違いもありますが、ずっと気を使わないと行けない人と結婚するのは、私には無理だと思いました」


「(二人は結婚の話をしてたのね) あっ、またっ、勝手に声が出てしまうわ」


 ルイーゼはため息をついた。

 

「なので良かったら、ルイーゼ様に良い方法を考えて頂けたらと思って、今日お会いする機会をマリア様に作っていただいたのです (マリア様に会えて良かった)」


 ルイーゼは、メルシアの顔をしばらくじっと見た。


「(私が出来る事なんて。どうしたら) んん。ええ、分かったわ。そうね...ミシェルにはあなたからはっきり言ってもらう方がいいわね。

 そうね..。(どうしてこんな事になってるの) んんっ、ええっと..(もう!)

 あ、商売がしたいから結婚は出来ないって手紙を送るのはどう?

 それからしばらく東国で働いてはどうかしら。働き口は従姉妹に紹介してもらうわ (ミシェルはこの子がいなくなったらどうするかしら)

 んん、あなたは隣国で商売の勉強をして、ほとぼりが冷めた頃に帰って来て、また店をやったら良いわ。今の店は誰か引き継げる人がいるかしら? (ミシェルはどうするかしら) んんっ」


「オーナーが引き継いでくれると思います。私は雇われているだけなので」


「それなら、そのまま東国で暮らしても良いのね?(本当にいいの?)」


「はい (東国の方が、商売は盛んだし)」

 

 何となく話はまとまり、混乱気味のルイーゼは両親と話をすると言って早々に帰って行った。


 


 メルシアは、安堵した表情で言った。


「本当にありがとうございます。恨みを買わずに済みました (貴族は怖いもの)」


「でも、本当にミシェル様の事はもういいの?一ヶ月前までは好きだったんでしょう?」


 普段のマリアなら聞けない事だった。今日は薬を飲んでいるという妙な自信があり、意図せずとも口に出てしまうのなら、自分の意思で口にしようと思ったのだ。


「そうですね...。私は、ルイーゼ様のご友人達からルイーゼ様の存在を知らされました。

『ミシェルが婚約者がいる事を隠していたのが、あなたとは本気で無い証拠』と言われ、私はそれが真実だと思いました。

 後日ミシェル様から『婚約解消するつもりだ』と言われても信じられなかったんです。(ミシェル様が事情を説明してくれていたらと最初は思っていたけど、聞けなかった私も同じ) どこかお互いに信頼出来なかったのでしょう。

 ごめんなさい。嫌な事を聞かせてしまいました」


 メルシアの言葉がマリアの胸に響き、魔女の言葉を思い出した。


『悲しみや不安な気持ちで未来を想像すると、悪い事ばかり考えるんだね』


「でも、これで良かったと思います (だってやっぱり身分が違うもの)」


 メルシアは店の引き継ぎと隣国へ行く準備をすると言って、帰って行った。




「これで良かったのかしら...」


 マリアは誰に言うでもなく呟いた。


「少なくとも、メルシア様には最良かと...」


 テーブルの上を片付け始めたカララが呟いた。


「ミシェル様は後悔するかしら」


「もう後悔してるでしょうね」


「ルイーゼ様は婚約者の事で悩まれて、心が不安定だったのかしら」


「そうだとしたら、とんだとばっちりですね」


「カララったら」


 気づけば、マリアは自分の意思で心のままに話していた。


「カララ、私、お喋りかしら?」


「いいえ、まだまだですよ」


「週末、ダニエル様ときちんとお話ししようと思うわ」


 マリアは、まだ書いていなかったダニエルへの手紙の返事を書きに部屋へ戻った。


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