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マリアの恋 6

 馬車に乗って移動していると、早速心の声が漏れ出した。


「小物を買ってみようかしら。リボンとか。(リボンさえ自分で買いに行った事はないわ)」


「そうですね。お嬢様は子供の頃出掛けられなかったから、つい、旦那様や奥様、マーカス様が、色々と買って来てくれましたね」


「そうね。必要な物は何でも与えてくれたわ。(こんなところが、のほほんとして努力していないように見えるのかしら?)」


「お嬢様。あんまりルイーゼ様の言う事は気にしない方がいいですよ。きっと、お嬢様と話の合う貴族の御令嬢もいらっしゃると思いますよ」


「そうかしら...(まだ、会った事ないかも..)」


「あはは、お嬢様。今からですよ、今から」


 カララとは、心の声が途中に入っても普通に会話出来た。


「これくらい、話してくれる方が私は嬉しいですよ」


「そうね。頑張るわ。(ダニエル様にも、私の思っている事が伝わっていないのかも)」


「そうですよ。ルイーゼ様のような、はっきり物を言う方がダニエル様の近くにはいますからね。言わないと伝わらないかも知れませんね」


 

 街に着き馬車を降りて、カララとマリアは歩き始めた。後ろから護衛としてサムが付いて来た。

 サムには事情を説明していないが、周囲を警戒しながら付いて来ているので、カララとマリアの会話は聞こえていないようだった。


「どこのお店に行きますか?」


「全然知らないのよ。とにかくリボンを売ってる店に、順番に入って行こうかしら。(リボンって、いくらするのかしら)」


「そうですね。良い物なら銀貨一枚くらいでしょうか?」


「そうなの? (カララが今結んでいるリボンはいくらかしら) あっ、ごめんなさい。(お金の話は下品って、カララ言ってたわよね) あっ」


「お嬢様、気にしないで下さい。確か銅貨三枚だったと思います。飾りがなく一色の物は安いですよ。あっ、この店リボンを売ってますよ」


 リボンと書かれた木の看板が店の前にかけてあった。窓ガラスはくすんでいて、中の様子は見えなかった。


「ちょっと、庶民向けかも知れませんね」


 店の外観でカララはそう判断したようだったが、マリアは入ってみる事にした。

 

 カララと二人で店に入った。中はこじんまりしていたが、置いてある物は上品で、身分の高い貴族が使っても良い物もある店だった。

 並んでいるリボンの数の多さにマリアは驚いたが、それに加えリボンに施された刺繍に驚いた。


「(私も刺繍はするけど、こんなに精巧な物は出来ないわ)」


 商品を見ながら、思わず心の声を漏らした。


「お褒め頂きありがとうございます。気に入った物がございましたら、声をかけて下さい」


 マリアと同じくらいの歳の優しそうな店員が、声をかけてくれた。


「ありがとうございます。ちょっと時間が掛かるかも知れません。(沢山あるもの) ..だから、ゆっくり選びます」


「構いません。どうか、お好きな物がありますように」


 にこりと微笑んで店の奥にある椅子に移動し、何か作業を始めた。

 よく見ると刺繍のようだった。


「(店員さんも、刺繍をされるのかしら?)」


「そのようですね」


 レース編みや織物で出来ているリボンもあり、見ているだけでマリアはワクワクしてきた。


「(すごいわ) リボンも色々あるのね。この赤のレース編みのリボンがかわいいわ。(素敵だけど、もう少し目が開いていてもいいかも。そして間にガラス玉を入れてもいいんじゃないかしら)」


「わあ、お嬢様、そんなアイディアよく思いつきますね」


「そうかしら?(でも、お店でこんな事思うなんて失礼じゃないかしら)」


「いいえ、失礼ではありません。良かったら、そのアイディアを色々お聞かせ下さい」


 いつの間にか店員がマリアの近くに来ていた。


「お客様の関心を惹くために、新しいリボンをひと月に一度は出すのですが、だんだんアイディアが浮かばなくなって来て..。アイディアを聞かせて頂けると助かります」


 店員がマリアを真剣に見つめているので、マリアは遠慮がちに頷いた。


「先ほどのような感じの事で良ければ...」


 マリアは思いつくままに、リボンの感想を話した。

 心の声が出る幕もないほど。

 店員は熱心にマリアの話を聞いてくれた。話し終わる頃には、喋りすぎて喉がカラカラになったが、心地の良い疲れがあった。


「ありがとうございました。とても参考になりました。お礼にお好きなリボンを何本か持って行って下さい」


「そんな。ただ思った事を言っただけなのに」


 マリアは恐縮したが、店員は首を横に振った。


「それに価値があるんですよ。新しいリボンは来月出ますので、また立ち寄って下さい」


 マリアは促されて、一番気になっていた赤いレース編みのリボンを手に取った。


「じゃあ、これを..(申し訳ないわ)」


 マリアが遠慮がちに差し出すと、店員は他にも数本のリボンを取り、一緒に袋に入れた。


「良かったら、使い心地なども聞かせてもらえると嬉しいです」


「(親切な方だわ。私が遠慮しないように) あ、ありがとうございます」


「え?いいえ、とんでもありません。良かったら、お嬢様のお名前を聞いてもよろしいですか?私はメルシアと言います」


「私は、マリア・レベックと言います」


 マリアが名乗ると、メルシアは驚いた顔をした。


「まあ、レベックって、あのレベック商会の方ですか?」


「は、はい。(私は、何もしてないけど) か、家族は頑張ってます」


 心の声と、現実の声との繋ぎ方のコツが分かってきた。


「ああ、だから、次から次にアイディアが出て来るのですね。あっ、私ったら店のリボンだけで、アイディアを頂いてしまって良かったのかしら」


「そんな!こちらこそ、こんなに沢山ありがとうございました。(自分で買うつもりだったんだけど) い、頂いてしまって」


「いいえ、マリア様。それは好意ではなく正当な対価です。マリア様がご自分のアイディアで得た物です」


 メルシアの言葉はマリアの心を温かくした。


 


 

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