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マリアの恋 1

 マリアは少し沈んだ気持ちで、婚約者ダニエルの実家のパーティーに出席していた。もう何度かダニエルと一緒にパーティーに参加したが、まだ華やかな場所に慣れずにいた。

 

 マリアの家は祖父の代で男爵位をもらい、父が受け継いだ新参貴族だった。

 ダニエルの実家は伯爵家で、ダニエルと一緒に出るパーティーにはマリアのような新参貴族の参加者はほとんどいない。ダニエルと一緒に来客達に挨拶をしても、マリアは一瞥(いちべつ)されるだけの事が多く距離を置かれている気がした。


 挨拶が落ち着いた頃、ダニエルの従姉妹のルイーゼがやって来た。ダークブロンドの髪が軽やかに波打っている。

 いつも新しいセンスを取り入れ、社交界の流行を牽引するような華やかな人で、今日も珍しい細身のブルーのドレスを着ていた。ルイーゼはマリア達の方に近づいて来た。


「こんばんは、ダニエル。その服似合ってるわ」


「ああ、うん。先日はありがとう」


 よく見ると、ダニエルの白いスーツの生地は、ルイーゼのブルーのドレスの生地と同じだった。

 光を反射しやすい生地は、二人を輝かせていた。


「ダニエル、飲み物を取って来て欲しいわ」


 ルイーゼがダニエルの腕に手を添えて言った。その声と仕草がダニエルに甘えているようで、マリアは思わず(うつむ)いた。


「...分かった。マリアをお願いするよ。マリア」


 ダニエルに声を掛けられて、マリアは顔を上げた。


「ちょっと離れるから、ルイーゼと一緒にいてね」


 マリアは頷くしかなかった。

 ダニエルは飲み物の置かれている方に歩いて行った。

 そういえば前回もこのパターンだったとマリアはダニエルの後ろ姿を見て思った。

 前回、飲み物を取りに行ったダニエルは友達に捕まり、なかなか帰って来なかった。マリアはルイーゼにも置いて行かれ、なんとか顔見知りを渡り歩き時間を潰したのだった。


「本当にマリアさんは幸運よね。ダニエルと婚約してもらえるなんて。家がお金持ちで良いわね」


 唐突に話しかけられてマリアは困惑した。どう反応するのが正解か分からなかった。遠回しな言い方で貶められているのだとは分かるが、上手くあしらう事が出来ない。


(ダニエル様と婚約出来て本当に幸運です..が無難かしら。それともお陰様で父の商売が上手く行っています..かしら)


 マリアが考えている間に、ルイーゼは話を続けた。

 

「でもダニエルは、上流階級の集まりにはマリアさんを連れていけないって言ってたわよ。もっと、積極的にマナーや知識を身につけないと、服だって...ね?」


 ルイーゼは、値踏みするようにマリアを見た。

 マリアが今日着ているのは刺繍が入った黄色のドレスだった。定番の型で面白味はないが、細身の体型をふっくら見せてくれる。それに茶髪で茶色い目のマリアに黄色は無難な色だった。


(服は仕方ないわ。だって、ルイーゼ様のように女性らしい身体つきじゃないのだから。でも、貴族社会のマナーや知識の事を言われると何も言えないわ。こればかりは、社交に出て経験するしかないのだろうけど...)


 又、答えられずに黙っていると、ルイーゼは不満そうな顔をしながら遠くを見た。


「まあ、ダニエルはお友達に捕まったようね。私、自分で飲み物を取って来るわ」


 ルイーゼはマリアを置いてさっと歩いて行った。


(私が黙っていたから、怒ったのかしら..)


 多少は顔見知りもいるしダニエルの親戚もいる。話かけに行った方が良いとは思うが、そんな気分になれなかった。あの白いスーツと青いドレスがマリアには(まぶ)しすぎて、なんだか惨めな気分だった。似合う服を選んで、センス良く着こなす二人が羨ましかった。


(きっと、ルイーゼ様は、私とダニエル様は似合わないって思っているのね)


 知り合った頃からすると、ルイーゼは段々とマリアに冷たくなっていった。

 それでもダニエルの前では普通に接するので、ダニエルはルイーゼがマリアの面倒を見ていると思っているようだった。


(私からルイーゼ様の事をダニエル様に、とやかく言う事は出来ないわ)


 マリアは、しばらく壁際で賑わう人々を眺めていたが、そっとテラスの方へ抜けた。外の緩やかな風でやっと一息つけた気がした。


 ふと見ると、向こうのテラスにダニエルと友人達、それにルイーゼまで一緒にいた。何となく一人でいるのを見られたくなくて柱の影に隠れた。

 楽しそうな声が聞こえて来る。

 

(ルイーゼ様がそこにいると言う事は、私が一人でいるってダニエル様は分かってて楽しんでいるのね)


 胸がジワリと締め付けられた。


「ダニエルの婚約者も来てるんだろう?ここに連れて来るかい?」


 誰かの声が聞こえ、マリアはドキッとした。

 気にしてくれる友達もいるのだと嬉しくなった。


(ダニエル様が私を探しに来るかもしれないわ。会場に戻ろう)


 テラスのドアを開けようとした時、


「マリアさんは、あんまり私とは一緒にいたくないみたいなのよ。さっきもそうだったから」


 ルイーゼが悲しげに言う声が聞こえた。


「話しかけても何にも返事してくれないの。平民出身だから育ちが出てしまうのが嫌みたいよ。卑屈にならずに分からない事は『教えて下さい』って頼めば良いのに。無理やり婚約させられたダニエルが可哀想だわ」


(無理やり婚約?どうしてそんな事...)

 

 思いがけない言葉に、マリアは衝撃を受けた。


「でも結婚するんだし、貴族社会にいつまでも馴染めないんじゃ困るよな、ダニエル?」


「そうだね...でも婚約は父が無理に決めた事だから..」


「そうよ、無理に結婚しなくていいんじゃない?それにダニエルに商売は向かないんじゃないかしら。ダニエルだって本当はやりたくないんでしょう?」


(婚約は無理に決めた事....)


 マリアは頭が真っ白になった。気がつくとテラスから出てパーティー会場の中に戻っていた。これ以上ここには居たくなくて、そっと会場を後にした。


 

 馬車に乗って自宅に帰りながら、誰にも何も言わずに会場から出た事を、今更ながら後悔した。


(もしかしたらダニエル様が私を探すかもしれない)


 優しいダニエルの事だからマリアを探してくれるだろう。でもそれはマリアじゃなくても同じ。ルイーゼがいなくなっても、もちろん探すだろう。

 婚約して一年。だんだん距離が縮まって来たと思っていたけど、勘違いだったのかもしれない。

 そう思うとマリアは悲しくなった。



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