あの ホーリー
残虐描写あり。 ご注意を
最初に逃げ出した背中を見つめ、上品な口がさらに続ける。
「 右足に、災い 」
走っていた背中がガクンと下がり、すべりこむように転び、続いていた者たちがおびえたようにたちすくむ。
転んだ男が右足を抱えながら、ものずごい声をあげてころげまわる。
抱え込んだ足のズボンのすそが見る間にふくれあがり、破裂とともに聞くに堪えない悲鳴がその場を凍らせ、そのあとの静寂の中に笑い声が響く。
「 ぶっはっはっは お、おまえら、ひひっはっはっは は は ――― あ~おかしい。最初の勢いはどうした? 逃げるなんてつまらねえことするんじゃねえ。 いいか?おれはつまらねえ魔法を使う《ジニー種族》じゃねえぞ。 おまえらが、馬車を奪ってボコろうとしたこのおれ様は、おそれおおくもかの《キラ種族》。 その中でもひときわ美しく強いと評判の、ホーリー様だ」
ホーリー!?あの、《最大級の呪い》をいともたやすくかけるという、あの!?
毛深いウルヴの男たちが身を寄せ合い、恐怖におののく。
口元を楽しげに曲げたままの男が、顔にかかる髪を軽く払ってそれらを見つめた。
「 こいつらが、二度とおれに手をだすことがないような、《大きめな呪い》を。 ―― さあ、どんな災いを受ければ、この先何百年、忘れずにいられそうだ? 」
ホーリーはこの世界の暮らしが好きだ。
自分の思い通りになんでもできるし、思うままに変えられる。