かかってこい
「 ―― どうした?かかってこねえのか?」
細く長い指をまげ、挑発するように軽く動かす。
相手はウルヴ種族の群れで、その長い爪をかまえながらも、じりじりと後退していた。
はん、と曲げた指を伸ばしたそいつが呆れてわらう。
「頭が悪い種族のわりには、のみこみが早かったな。 ―― そうだ。おまえらは、おれに触れることさえできない」
「お、おまえ、《ジニー種族》だと言うとったが、嘘だろう? 《ジニー》の魔法が、おれたちの頭をふっとばすなんて、ありえねえぇ」
「あたりまえだ。そもそも、《ジニー種族》が、こんなイイ男のわけねえだろう? あいつらはもっと、顔のでかい岩山みたいな姿だ」
「だ、だましたのか?」
「だますもなにも、人の馬車を寝ている隙に奪おうとするヤツらになんざ、本当のこと教えるわけねえだろが。 いきなりとびかかってきて『何種族だ』なんて聞きやがるから、思いついた種族を口にしたまでだ」
にやり、と。それはそれは、楽しそうな、嫌なわらい。
後方にいたウルヴがひとり、背中をみせ走り出す。
他が続こうとするのを、楽しそうに見送る男が、とがりぎみの鼻をうわむけ、ささやいた。
「このバカなウルヴ種族たちに、―― 《小さな呪い》を」