第89話 巡り巡って
ナユダさんは前回めっちゃ絡んできたのに今回は全然絡んでこないんだよね。
1人で誰にも近づかず静かに浸かっている。
女の子の傷跡を見るのは失礼だとは思うけど、疑いを晴らすなら見るのが早い。
それに傷跡にお湯がしみているんじゃないかって心配もある。
「ナユダさん」
「えっ、なに?」
「身体の傷はどう?」
「だっ、大丈夫だから、あんまりこっち……来ないで」
「朝は見せてくれだじゃないですか」
「腕くらいならともかく、身体までは……イヤかな」
「そうなの?」
「私だって女の子なんだからね」
「そっか。ごめんね」
「いいよいいよ。私も朝は軽率だったから」
やっぱり嫌だよな。
そう言われると無理に見せろと言うのも可哀想だ。
言い分に不自然さは無いと思う。
『ますます怪しいですね』
『お前は疑うことしか出来ないのか』
『よく知らない相手を疑うのは当たり前です。それに疑っていることを相手に知られなければなんら問題はありません』
『そんなんでいいのか』
『そうでもなければ異世界人なんて相手に……出来ません』
あ、ヤバい。
話題を変えよう。
えーと、えーと……
『つまり俺たちも信用していないってことか。そうだよな。〝異世界人〟だから信用できないよな。俺は中央抜きのお前は信用していたんだけど、一方的なことだったんだな』
『あ、いえ。決してそのような意味では――』
『いいよ、取り繕わなくたって。俺たちを信用するに足る付き合いなんて全然無いもんな。ああそうか。〝結界外探索〟に移動になったんじゃなくて、〝俺たちが全員異世界人〟だからお前が選ばれただけだろ。よかったじゃないか。適任だ!』
『移動ではなく異動です。ではなく、船長のことは信用しています』
『またそんな嘘を……正直に言おうぜ』
『では言わせていただきますが、モナカ様は船長に相応しいとは思えません』
あれ?!
話が飛んでいないか?
『直ぐ感情的になり、冷静さに欠けています。特にフブキ様が関わると周りが見えなくなるのは致命的です。仲間思いと言えば聞こえは良いですが、全体の利を考えたときのリスク管理が出来ていません。非情になり、仲間を切る判断をしなくてはならない時が訪れることがあるでしょう。貴方にそれが出来るとは思えません』
『当たり前だ。そんなことできるわけないだろ』
『ですから船長に相応しくないと言っているのです。1人を助けるために全員の命を脅かすことは推奨できません。その線引きが貴方に出来るとは思えません』
『助けられるのに見捨てろっていうのか』
『貴方は助けられなくても助けに行くでしょう。そういうのは無謀というのです。船長ならばそういった行動を取ろうとする船員を止める立場になければいけません。貴方が先頭に立ってはいけないのです』
『くっ……それでも俺は……』
『自らの意思で結界外に残ったエイル様を見つけようとして、皆様の命を危険に曝しています。愚かなことです』
『全員が同じ意見なんだぞ』
『個人的な意見が一致していても、集団としてそれは正しい判断でしょうか。船長ならば自分の意見を殺してでも一歩引いて判断しなければなりません』
『エイルは必要な人材だ。いや、不要な人材なんて誰1人として居ないっ』
『代わりはいくらでも居ます』
『ならエイルを中央に引き込もうとするな。代わりは居るんだろ』
『おや、これは一本取られてしまいました。そうですね。代わりが居ないわけではありませんが、エイル様の知識の代わりはありません』
『つまりその知識と残った船員を天秤に掛けろと?』
『命に勝る知識なんてものはありません』
『……意外だな。知識かと思ったぞ』
『いけませんか』
『その知識でより多くの命が救える可能性もあると思うぞ』
『別の知識で救えばいいだけです』
『それを探している間に救えない命があるかも知れないぞ』
『それはどんなものにでも言えることです』
『アニカにやらせていることはお前が否定したことじゃないのか』
『本人が精霊様の加護があるから問題無いと仰りました。僕はそれを信用しました。ですからお任せしたのです』
『どうして信用したんだ』
『先日申し上げたようにオルバーディング家は中央の管理下にあります。そのお陰で精霊様についてもモナカ様より詳しく存じております。アニカ様のことも、フレッド様から耳にタコができるほど聞かされておりました』
フレッド……お前ってヤツは。
『貴方たちのこともよく仰っていました。あ、今のは口外無用でお願いします』
『つまりフレッドのお陰で俺たちを信用しているってことか?』
『ふむ……そうと言っても過言ではないでしょう』
……あれ?!
巡り巡って戻ってきたぞ。
『そろそろ時間でしょうか』
『そうだな。出るとするか』
結局なんだかんだと話してしまった。
「鈴……あれ? 鈴?」
鈴が居ない?
まさかまたのぼせてしまったのか。
その上沈んだ?
「鈴ちゃんなら話が長そうだからって時子が連れてったよ」
「時子が?! そ、そうか。で? なんでナームコが隣で茹だっているんだ?」
「マスターが〝不要な人材なんて誰1人として居ない〟って言ったのが嬉しかったんじゃない?」
「聞いていたのか?!」
「みんなに聞こえてたよ」
「マジか……」
デイビーのヤツ、全体会話を使って俺に話しかけていたのか。
個人会話だと勝手に思っていたぜ。
なにが〝俺に〟だよ。〝みんなに〟じゃねーか。
「ナームコ、出るぞ。ほら立て!」
「気を失ってるんじゃない?」
「まさか」
「本当よ」
「ナース?」
「ただでさえ舞い上がってたのに兄様と一緒にお風呂に入ったことで更に興奮したようね」
「ったく、世話の掛かるヤツだなー」
このまま放っておくことも出来ないし、背負って連れてくか。
あー、力の抜けた人間ってなんでこんなにも重く感じるんだろう。
服は……タイムに任せよ。
次回、ちょっとだけイチャイチャ?




