第87話 本当の浮気相手は誰だ
ああ、やっぱりいい毛並みだな。
枝毛1本無い。
指通りも気持ちがいい。
そういえばフブキの換毛期って無いのかな。
夏になっても毛が抜けた記憶が無い。
柴犬みたいに抜けるかと思ったけどそんなこともない。
シヴァイヌだからといって、冬だからモコモコするなんてこともない。
ブラシにも殆ど抜け毛が取れたことがない。
それに引っかかることなくいつもクシ通りが滑らかだ。
だからこそこの毛並み……ああ、気持ちいい。
フブキを癒やすつもりが、いつも俺が癒されてしまう。
まさに魔性の女。
「モナカ、お風呂行こうよ」
「お、風呂の仕度終わったのか。でもごめんな。一緒には入れないんだ」
「なに言ってるの。繁栄の儀の前にはきちんと身体を洗わないとダメだよ」
「そうなのか。フブキは物知りだな」
「はあ?!」
「あー、久しぶりにスイッチが入っちゃったかな。マスター、お風呂だよ」
「タイム? 居たのか」
「〝居たのか〟じゃないよ」
「ははっ。うん、さっきフブキに教えてもらった」
「へ? モナカ?」
「あははは。気にしないでください」
「なにがだ?」
「こっちの話」
でもそうか。
繁栄の儀の前には身体を洗わないとダメなのか。
フブキも参加するってこと?
確かに繁栄を誓うことくらい出来るだろう。
……誰と?
相手も必要なんだよな。
俺が! と言いたいところだが、先約があるからなー。
断る……わけにはいかなさそうだ。
右腕に抱き付かれているからな。
「もう。繁栄の儀のこと、忘れてないでしょうね」
「覚えているよ」
「ならなんでトキコと手を繋いでるの!」
「そのくらいいいだろ」
「よくないっ! 今日の相手は私なんだからトキコは遠慮して」
「はいはい、分かりました」
「時子?」
「いいじゃない。まだ余裕があるんだから」
確かに手を離して直ぐバッテリーが空になるなんてことは無い。
それに風呂に入っている間は手を離しているんだから今からでも大差ないか。
「パパ、浮気はダメだよ」
そんな言葉何処で……って、あそこしかない。
「浮気じゃないからね。浮気だったらこんな堂々とやらないでしょ」
「そっかー」
納得してくれた。
よかったー。
次回、風呂回です




