第86話 ホントにホントにホントにホントに……
「本当になんともないんだ」
あきれ顔でナユダさんが声を掛けてきた。
「ナユダさん。もう大丈夫?」
「あはは。なんかビックリしちゃったら落ち着いたわ」
「すみません。驚かせてしまって」
「ううん。それが親子ってヤツなの?」
「あ、ああ……」
仮初めだけど、もうそんなの関係ない。
「そうですよ。さ、鈴。ご飯食べちゃおうか」
「うん。鈴、お腹空いた」
ナユダさんが用意してくれたものは……まぁいつもどおりだ。
「おいしくなぁれ。おいしくなぁれ。はい、兄様」
「ああ、ありがとう」
「はうぅ!」
はいはい、これもいつもの反応っと。
……あれ?
「ナユダさん、食べないの?」
「え? あ……その……なんか食欲無くなっちゃって。あははは。あーそうだ。私の分、モナカが食べていいよ」
「いいの?」
「うん……」
食欲がないというより、皿を触ることも嫌みたいだ。
食べていいよと言いながらも、皿を渡そうとする素振りも無い。
もしかして。
「ナームコ、ナユダさんの料理は安全なのか?」
「はい。なんの問題もございません」
「だってさ。お腹空いているんでしょ。食べなよ」
「う……ほ、ホントに?」
「はい」
「ホントにホント?」
「間違いございません」
「ホントにホントにホント?」
「影響を全く受けていないのでございます」
「ホントにホントに――」
「いい加減にしろ」
「……へ?」
「冷めないうちに召し上がりやがるのでございます」
「う……うん」
半ばナームコに脅される形で食べることになったようだ。
安心して。
ナームコが言うんだから大丈夫だ。問題ない。
しかし残念なお知らせがある。
夕飯は既に冷めていたのだ。
ナユダさんは恐る恐るあの硬いパンのような塊を2つに割って、それを舌先で舐めるように味を確かめている。
いきなり齧り付く勇気は無かったか。
ナームコを信用できないんじゃそうなるよな。
結局舐めるだけで止め、スプーンを持ってスープを……すくうというより潜らせるだけで付いてきた水滴を舌先に乗せた。
とても飲むといった感じではない。
舐めるですらないぞ。
そんな感じで全ての品を確認していった。
半信半疑どころかこれは無信全疑と言って過言では無い。
一通り終わって漸く納得したのか、普通に、それでもいつもよりゆっくりと食べ始めた。
進化の儀を潰したいと言っていただけのことはある。
恐る恐る1口、また1口食べている。
そんなだから今日はナユダさんが一番遅く食べ終わった。
よく噛んで食べたからではない。
飲み込むのに勇気が要るみたいな感じだった。
本当に大丈夫なのか?
毒素というより精神的な面でだけど。
「「「ごちそうさまでした」」」
豪勢というだけあって品数は多かった。
そして特別料理も出た。
……これが繁栄の儀ってことは無いよな。
「それじゃササッと片付けてくるから、待ってて」
「ああ」
例の料理の皿は触らないようにおっかなびっくりしている。
その皿は分けてあるけど見た目は同じだからな。
俺が3人分、時子が2人分だから合計5皿。
その皿を、動くことも出来ず立ち尽くしていた料理人に手渡した。
それで我に返ったのか、慌てて外へ出て行った。
後は風呂に入って寝るだけだけど、繁栄の儀っていつやるんだ?
風呂の前? それとも後?
とりあえずフブキにブラッシングでもしてやるか。
次回、ブラッシングします




