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第84話 特別料理は危険な香り

「見て見て! これ、繁栄の儀に参加してくれるから特別にだって! いいなぁ」

「ん? ナユダさんの分は無いの?」

「そうなんだよー。貴方方へのお礼なんだって」

「ワン様が、でしょうか」

「え? あーそれは聞いてないな。でもそうなんじゃない? こんなこと出来るのワン様以外居ないもの」

「そうですか。お礼を言いたいのですが、困りましたね」

「要らない要らない。お礼にお礼をするっておかしいよ」

「お心遣いに感謝するのは普通ですよ」

「ふーん。変わった普通だね」

「ではこの料理を用意してくださった方をお呼びしてもらってもよろしいでしょうか」

「だからお礼なんて――」

「お礼ではありません。少しお話ししたいことが御座います」

「えっ……」

「お呼び頂けますか」

「う……」


 なんか、蛇に睨まれたカエルみたいになっているぞ。

 圧力が凄い。

 なのに顔はいつもどおりだ。

 怖ぇ。


「わ……分かったよ。ちょっと……待ってて」


 圧に負けたか。

 ゆっくりと立ち上がったと思ったら、逃げるように走って行った。


「容赦ないな」

「このようなものを提供されたのですから、相応の対応をしなければ失礼です」


 失礼……ね。

 なんか意味が違うような気がするぞ。

 ナユダさんが例の料理人を引っ張ってきている。

 触って大丈夫なのか?

 料理人はこっちに来たくないのか抵抗している。

 それでも半ば引きずられるようにジリジリとこっちに近づいてきた。


「さっさと来なさい」

「ですから、私は皆さんの前には――」

「彼らが呼んでるんだから、文句は彼らに言って!」

「そういうわけには……それに何度も言ってますが、私に触るのは――」

「手を離したら貴方逃げるでしょ! いいからこっちに来なさい」


 すみません。

 お手数をお掛けします。


「あの……その……私が料理しました。なにか……えー……ご用で……しょうか」


 なんかすげーしどろもどろだな。

 目線も泳いでいるし。


「これはどういうことでしょうか」

「ど……どういうことと……いいますと?」

「とぼけないでください」

「いえ……その……とぼけてなど……」

「でははっきり言いましょうか。この料理に使われている食材は、進化の儀用の食材ですね」

「えっ!」


 ナユダさんが驚いている。

 知らなかったのか?

 それとも演技……

 ダイスさんが変なことを言うから疑ってしまう。

 でも演技だとしたら主演女優賞が取れそうだ。


「そ……そんなことは……その……」

「どうなんですか」


 おいおい、触らなければ問題ないと言っていた相手に迫っていくのかよ。

 双子(タイム)が付いているからって強気になりすぎだろ。


「わ、私に触らない方がいいですよ」

「そんなことは承知済みです。僕たちが分からないとでも思っていらっしゃるのですか」

「えっ、どういうことだい? 私思いっきり触ったんだけど」

「この者は進化の儀の影響を受けすぎて人ではない存在に近くなっております」

「人ではない……って、魔神(まがみ)様に?!」

「そうですね。微弱ではありますが神気のようなものを漂わせています。ですから人間が接触すれば当てられてしまいます。ナユダ様、お手はなんともありませんか」

「ひぃっ! 手……手?! 私の手……え、手? 嘘、ヤダ! 私は……私は! いやーっ!」

「落ち着くのでございます。わたくしが見た限り、なんともないのでございます」

「ホント? ホントに? なんともない? ねぇ、もっとよく見て。ねぇ! ホントに?」

「はい。触れていたのは服だけでございましたので、影響は無かったと存じるのでございます」

「服……服……あ、あああああああっ!」


 これが演技?

 俺には信じられない。

 何処からどう見ても進化の儀を心底嫌っているようにしか見えない。

 ダイスさんの勘違い?

 それとも自分への疑いを逸らすためのフェイク。

 別に疑ってはいないけど……

 どっちを信じれば……それとも考えすぎなのか……

 デイビーも余計なこと言いやがって。

 そもそもなにをスパイするっていうんだ?

 情報を渡すんだからその見返りは?

 〝進化の儀〟以外でなにかある?

 分からないことだらけだ。

 こういうのって苦手なんだよな。


「ナユダさん、落ち着いて。ね」


 どうすればいいのかなんて分からない。

 俺はただこうやってギュッてしてあげることくらいしか出来ない。


「モナカ……私おかしくない? 変になってない? 人間じゃなくなっちゃった?」

「ナユダさんは人間だよ。なにもおかしくなってない。変にもなってない。だから安心して。ね」

「うう……私は……私のままがいいの……いやぁ……」


 さっきよりは大人しくなったけど、まだ混乱しているのかな。


『ナームコ。本当に大丈夫なんだろうな』

勿論(もちろん)でございます』

『そうか、分かった』


 ナームコが言うんだから大丈夫だ。

 落ち着くまでこのままでいるしかないか。


「この料理は誰の指示で僕たちに出すよう命令されたのですか」

「え……あ……それは……えーと……し……食材が……その、余ったので……私の独断で……えー……その……出しました」

「ふむ。それを信じろと?」

「あー……その……う……は……い」


 つまり魔神(まがみ)の了承は得ていない。

 あくまで独断で……ということか。

 でもその喋り方と態度がなー。

 もっと堂々としていれば信用できるんだけど、キョドりすぎでしょ。

 デイビーも右手で頭を抱えて首を振っているよ。


「僕たちはこの料理を食すつもりはありません。下げてください」

「え……それは……えーと……」

「下げなさい」

「ひっ。は……はひ」


 うわっ。

 表情1つ変えずに、いやむしろ薄く笑って見える感じで物静かに言っただけなのに、なんて冷たい声なんだ。

 俺も少しだけ背筋が寒くなったぞ。


「ああ、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。ですが、もし万が一一滴でも溢しでもしたらどうなるか………………気をつけてください」

「ひぃぃっ!」


 確かにそんなものを一滴でも床に溢したら大変なことになるかも知れない。

 ……なんて意味じゃないよな。

 その間が怖いぞ。

次回、我が儘娘です

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