第81話 誓い合う
「モナカ、繁栄の儀に参加してくれるの？」
「ん？」
『兄様、進化の儀があのようなものでございました。繁栄の儀もろくなものではないのでございます』
『そんなことを言うな。ナユダさんになにをするのか聞いてからでも遅くはないだろ』
『聞くまでも無いのでございます』
「ね、参加してくれるんだよね！」
おおっ！
随分と積極的に詰めてくるな。
身体をピタリと寄せて迫ってきた。
「え、えーと。繁栄の儀って――」
「ね！ 私の相手、してくれるよね！」
「あ、相手？！」
相手ってなんだ。
ナユダさんと一緒になにかをするってことだよな。
「あー、一体どういった――」
「私が相手じゃ不満なの？！」
「あいや、不満とかそういうんじゃなくて、だから――」
「じゃあいいよね！ 決まり！」
「ええ？！ あ、う、うん」
「よしっ！」
「マスター……」
「兄様……」
なんだか押し切られてしまった。
「あの……繁栄の儀って一体どんなことをするんですか？」
「ん？ 私たちが未来永劫栄えますようにって誓い合うことだよ」
未来永劫とは大きく出たな。
誓い合うのか。
てことは最低でも２人居ないと出来なさそう。
「へ、へぇー」
「貴方方だって繁栄の儀をしてるんでしょ」
「あー、うん。してる……かな」
家内安全とか、交通安全的な願い事はお正月に神社でしていた……かな。
破魔矢を持っていって新しいものに買い換えたりしていた……よな。
ちょっと記憶が曖昧だ。
「でしょ！ よかったー」
「タイムも一緒にしていい？」
「え？ みんなはモナカといつもしてるんでしょ。今日ぐらいいいじゃない！」
ありゃ。
てことは、２人でするようなことなのか。
「兄様、やはり悪い予感がするのでございます。お断りした方がよろしいと存じるのでございます」
「えー？！ なんでそんなこと言うの！ ナームコはここが衰退して滅びればいいって思ってるんだ。酷いや」
「ナームコ、そういうことを言うもんじゃないぞ」
「わたくしは兄様のためを思って申し上げたのでございます。そもそもここが兄様に敵対するようなところでございましたら、わたくし自らが滅ぼす覚悟でございます」
「そんな覚悟は燃えないゴミの日に出しておけっ」
「兄様っ！」
「とにかく、ここの繁栄を誓うだけなんだから悪いことは起きないだろ」
「そうだよ。２人で誓い合うだけなんだから。それだけでとっても気持ちがよくなるんだからね」
「気持ちよく？」
「そうだよ」
「ふーん」
まさか麻薬的ななにかか？
悪徳宗教でそういうのはよく聞く話だけど……大丈夫かな。
ナースが付いているから俺は大丈夫だろうけど……
「ナームコもたまにはモナカじゃなくて他の人を相手にしなよ。ここだと毎回相手を代えるのが規則なんだからね」
「毎回？」
「そ。モナカはまだ私たちとしたことないでしょ。魔神様の許可もあるし、今のうちに確保しておかないと他の人に取られちゃう！」
「そういうものなのか？」
「魔神王様が同じ人を相手にしてばかりだと繁栄しなくなるっていうんだ」
「そうなんだ」
「そ。だから今晩よろしくね」
「分かった」
「兄様っ！」
「ナームコ、予感は予感だ。外れることもある」
「女の勘を信じてほしいのでございます」
「なら外れるな」
「兄様？！」
「〝女の勘は〟……だろ。ナームコは〝女〟じゃなくて〝義妹〟だ」
「に、兄様……わたくしはなんて思い違いを……ナームコは嬉しゅうございますっ」
「あっ、こら！ 抱き付くなっ」
「あー！ だから私が確保済みなんだから止めてよ！」
「ナユダさん！ マスターに抱き付くのは許しませんよ」
「だからってタイムまで抱き付くなっ！」
「に゛い゛さ゛ま゛ー゛」
「だから鼻水を擦り付けるな！」
「モナカは私の！」
「違いますっ！ タイムのです！」
「俺は物じゃないっ！」
「う゛え゛ー゛」
はぁー、先が思いやられる。
アニカが居ないときでよかった。
絶対抱き付いてくるからな。
時子は……しないか。はぁ。
鈴ちゃんは笑いながら〝鈴もー〟とか言いながら抱き付いてくるんだろうな。
でも〝繁栄の儀〟か……
ペアになってなにをするんだろう。
どんな感じで繁栄を誓い合うんだ？
破魔矢的ななにかを一緒に持って奉納するとか？
とにかく、衰退するより繁栄した方がいい。
この先も繁栄し続けるために誓おうじゃないか。
次回、なにが異様なのでしょうか
