第7話 デニスの軌跡
「おや、どうやらデニス様の身分証の解析が終わったようで御座います」
はやっ。
そんな簡単に終わるものなのか。
身分証を取り出し、解析されたデータを見ながら〝ほう〟だの〝興味深い〟などブツブツ言っている。
どうやら色々残っていたようだ。
暫く魅入っていたが俺たちの存在を思い出したらしい。
「あぁすみません」
「なにが分かったんですか」
「すみません。機密事項なので部外者には教えられません」
そのデータを持ち帰ったのは俺たちなんだけど。
それにエイルのお父さんのデータだぞ。
見る権利はあると思う。
「それとも、中央省に入る決心がつきましたか」
「いえ、それはありません」
「それは残念。ですが、行き先が決まりました」
勝手に決めるな。
「そこはここと同じで結界が張られているようで御座います」
「ということは、人が住んでいると?」
「可能性が高いでしょう。結界の維持には魔力が欠かせませんから」
「中は確認していなかったんですか?」
「恐らく既に魔人化した後なのでしょう。普通の人間なら入れてもらえたかも知れませんが、魔人なら門前払いでしょう」
確かにそうだろう。
だから確認しに行きたいということか。
そこにエイルが?
お父さんが何処に行っていたかなんて話をしていれば、可能性はある。
闇雲になって探すよりは確実か。
ただ1つ疑問がある。
「確かデイビーさんは異世界部門の方ですよね。それがなん――」
それを聞いたデイビーさんの額に青筋が浮き出てきた。
なのに表情は変わっていない。
それが逆に怖かった。
「あ、いえ。なんでもありません」
このことには触れない方がよさそうだ。
きっと色々あったんだろう。
「えーと……あ、結界のある場所の座標を教えてもらえますか」
「それはここに行くということでしょうか」
「他に当てもありませんし、可能性が少しでもあるなら行く価値はあると思います」
「そうですか」
ん?
あまり乗り気ではないのかな。
声に勢いがない。
自分で振っておいてそれはどうなんだ。
「それでは仕度をしましょう。一度中央省に寄ってください。食料や野営の道具を――」
「あーそれなんですけど、必要ありません」
「必要無い……とはどういうことでしょう。何ヶ月かかるか分からない場所へ行くのですから、必要なもので御座います」
「大丈夫ですよ。日帰りできますから」
「そんなわけないでしょう。ここからどれだけ離れていると――」
「船長命令です。必要ありません。いいですね……いや、いいな。分かったら返事をしろ」
「……分かりました。どうなっても知りませんよ」
気持ちは分かる。
でもそんな大量の荷物を置く場所も無いし、日帰りできるのは本当だ。
なにしろ光速を越えられるんだからな……壊れていなければ。
「それでも一度中央省に寄ってもらえませんか」
「理由は?」
「結界の外でも身分証を使えるようにするものがあります。それを船に取り付けさせていただきたいので御座います」
なるほど。
そうすれば前回みたいな面倒がなくなるかも。
問題は翻訳くらいか。
「取り付け……簡単にできるのか?」
エイルが居れば簡単なんだろうけど。
「省の技術者がやりますので、問題ありません」
「そうか」
出来るかどうかはともかく、素人がやるよりはいいだろう。
壊したり変なことしなきゃいいけど。
『タイムが見張ってるから大丈夫だよ』
そこはルイエじゃないんだ。
『ははっ、頼んだぞ』
一応話は纏まった。
デニスさんが立ち寄ったところに行く。
闇雲に探すよりはいいはずだ。
前回は結界なんて張っていない場所だった。
今回は張っているらしいから、エイルたちと同じこの世界の人間ってことか。
ここ以外にも生き残っている人たちがいる。
交流が出来るようになればいいんだけど。
次回は、まだ船に乗りません(ナニ