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第78話 見慣れてしまった光景

 もー、ナユダさんには参ったな。

 中々船から離れてくれないんだから。

 仕事はどうしたんだよ、仕事は。

 今も文句をブツブツと呟きながら先導している。

 気持ちは分かるけどダメなものはダメだ。

 なにしろ俺自身ハッチを開けられないんだからな。

 でも本当に鈴ちゃんは……鈴ちゃんたちは船のために創られたんだなって改めて思い知らされる。

 船さえ無くなれば鈴ちゃんは解放されるのかも。

 いや、無くなれば〝鈴は用済みで要らない子〟になるから他で役に立とうと考えて、余計必死になっちゃうかも。

 難しいな。


「はぁい、着いたよ。ブツブツ……」


 まだ不貞腐れている。

 そこまで興味を持ったの?

 アニカたちはまだ来ていないみたいだな。

 少し早かったか。


『船の中くらい見学させてやってもいいんじゃないか? そうすれば静かになるだろ』

『許可できません。過干渉に含まれます』

『そうかあ?』

魔神(まがみ)王様に言われていたではありませんか。もっとも……いえ。とにかく中央としても船に乗せることは許可できません』

『勘違いしていないか? アトモス号は中央の所有物じゃない』

『ですが僕たちの希望でもあります』

『希望?』

『こうやって他の生存者に会うことが出来ました。結界が張られて600年。初の快挙なのです。そもそも元々は中央が管理していた勇者の(ほこら)の遺産です。エイル様とナームコ様を盗掘者として捕縛し、船を中央の所有物として接収しても構わないのですよ』

『くっ……』


 ナームコはともかく、エイルはマズい。


『動かせなければただの鉄くずだろ。まさか鈴ちゃんまで連れていって船の動力として利用するつもりか?』

『中央には保護した異世界人が何人も居ます。その中に動かせる者が居るかも知れません。それに研究が進めば僕たちで動かせるようになるはずです。そうなればスズ様が動かす必要も無くなり、普通のお子様として生きていけるのではないでしょうか』


 それは魅力的な話だが、今はまだ早すぎる。

 確実に〝鈴は要らない子〟一直線だ。


『分かった。過干渉で手を打とう』

『ご理解、ありがとうございます』


 過干渉か……

 何処までがセーフで何処からがアウトなんだろう。

 線引きが難しいな。

 しかし自分で言っておいてなんだけど、結局進化の儀を見ることになっちまったぞ。

 人が死ぬところを鈴ちゃんに見せたくないんだが……


「鈴、ママと御本読んでこようか」


 時子、ナイスだ。


「御本? んー、パパは?」

「パパはアニカを見守ってるよ」

「じゃあ鈴も見守()ーっ」

「鈴」

「ママ、鈴は昨日倒()た人がどうなったのか知って()よ」

「えっ」

「鈴はね、沢山沢山見てきたから。だから平気だよ」

「鈴……」


 〝見てきた〟……か。

 鈴ちゃんは俺たち以上に人の生き死にを見てきたんだよな。

 明日は我が身という思いを抱えながら。

 〝だから平気〟なんて言ってしまうほど日常だった。

 平気なものか。


「鈴、ママと御本を読んでいなさい」

「パパ?」


 俺はあえて目を合わせず、建物の裏手からやってくるアニカを見つめ続けた。

 小さな手が俺の手をギュッと強く握った。

 でも俺は強く握り返したりしない。

 それまでと同じで優しく握り続けた。

 すると小さな手は強く握るのを止め、するりと離れていった。


「ん、良い子だ」

「うゆ……」

「時子、鈴を頼んだ」

「うん。さ、中で御本読んであげる」

「……はい」


 これでいい。


「今日はどんな御本がいい?」

「ん……キツネさんが出てくるのがいい」

「じゃあ〝ごんぎつね〟読んであげる」


 それは……鈴ちゃんの涙腺は大丈夫なのか。


『モナカくん!』


 ワンさんに連れられてみんながやって来たぞ。


『アニカ、身体に異常はないか』

『うん。元気だよ。お腹は空いてるけど』

『っはは。いっぱい食べておけ』

『うー』


 とは言ったものの、毒素入り……なんだよな。

 昨日は大丈夫みたいだったけど、今日も大丈夫なんて保証はない。

 精霊たち、アニカを守ってやってくれ。

次回生き残るのは?

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